著者
湯田 豊
出版者
神奈川大学
雑誌
語学研究
巻号頁・発行日
vol.4, pp.49-83, 1981

I, 3,1-21。ここでは神々と鬼神たちの争いにおいて「口のなかの息」がウドギータとして鬼神たちを破滅させることが述べられている。人間の感覚器官の機能はすべて悪によって貫かれているけれども, 口のなかの息だけは悪によって貫かれず, 死を超えて存続している。I, 3,1-7において, われわれは口のなかの息がウドギータとして悪・死を滅する呪術性をもっていることを知っている。I, 3,8-21において, われわれはウドギータとしての口のなかの息が死を超えていることを確認することが出来る。口のなかの息, あるいは生気は, アートマンの先駆思想である。そして, この生気がウドギータであることを知る人は食物を食うようになると言われる。Ya evam veda(このように知っている人)は悪, すなわち, 死を征服するという思想が当該箇所のテーマである。I, 3,22-28。ここでは, サーマン(=ウドギータ)は生気として讃美されている。ここでもまた, サーマンを生気であると知っている人は願望を成就することが出来る。ウパニシャッドの特徴の一つは, 知識は力であるという思想である。しかし, それと並んで重要なことは, 不死への希望が認められることである。I, 3,28において, われわれは「わたしを死から不死へ導け!」という祈りがウパニシャッドの中心思想であることを認めなければならない。「わたしを不死にせよ!」(amrtam ma kuru)という祈りこそ, まさにウパニシャッドの理想である。

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