著者
池川 隆一郎 中江 史朗 中村 毅 斎藤 洋一
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.89-97, 1996-11

大腸癌61例を対象とし,AgNORsスコアの算定および免疫組織染色によりCD44v6の発現の有無の検討を行い,臨床病理学的所見との関連を検討した。大腸癌のAgNORsスコアは3.12〜4.55に分布し,平均は3.84±0.29(mean土S.D.) であり,正常粘膜60例の2.70±0.22より有意に高かった(p<0.05)。深達度では,ss a1以上ではmp以下より,P (+),H(+),n(+),ly(+)は各々陰性例より有意にAgNORsスコアが高く(p<0.05),特に肝転移の有無とは密接な関連がみられた(p<O.01)。CD44v6の発現の有無と臨床病理学的所見の比較では明らかな関連性はみられなかったが,異時性も含めた肝転移との検討ではCD44v6発現陰性群6/34よりCD44v6発現陽性群10/27で肝転移症例が多くみられる傾向があろた(p<O.1)。両因子を組み合わせた検討では高AgNORsかつCD44v6陽性では肝転移の頻度は7/16 (43.8%) と高率であり,低AgNORsかつCD44v6陰性では17例全例肝転移はみられなかった。またCD44v6の発現とAgNORsスコアの間には有意な関連はみられなかった。以上よりAgNORs染色が良悪性の鑑別に有用である可能性があり,両因子を組み合わせて検討することは肝転移の予測推定に有用であると思われた。またAgNORsスコアによって示される増殖活性と,接着因子CD44v6とは各々独立して肝転移に関与している可能性が示唆された。

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