著者
藤原 裕
出版者
立正大学
雑誌
立正大学文学部論叢 (ISSN:0485215X)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.61A-81A, 1997-09-20

フランス芸術史上二人のメッソニエが存在する。マルセル・プルーストは少年時代, 好きな画家はと問われて, 好きな音楽家のモーツアルトとグノーとともに, 即座にメッソニエと答えている。このメッソニエとは何者であるか。まず17世紀の末にイタリアで生まれ, 後ルイ15世によって王宮の祝宴を企画準備するため, その室内装飾家に任ぜられ, また肖像画家であったジュスト=オレールである。かれはロココの装飾様式に最も貢献した建築家でもあった。華やかなサロンのパネルに想像力を駆使したその装飾作品はポーランドまで響きわたった。しかしサン・シュルピス寺院のファサードのデザインをセルヴァンドニと争ったころからネオ・クラシシズムの台頭との対決となる。もう一人のメッソニエ(ジャン=エルネスト)をもプルーストは書簡などでよく引用する。だがこの方は主として優れた芸術と比較される大衆に最も人気のある19世紀の画家である。同じ1845年のサロンの出品作品でも, フロマンタンはこれを評価し, ボードレールは失望して却ってドラクロワの偉大さを発見している。フロマンタンはこのメッソニエにオランダのメツウやテニールスのような精密さを見いだしたのである。ついにナポレオン3世を描いたメッソニエは仏学士院入りを遂げ, 《バリケード》などのレアリズム絵画により戦争画家となり, T・ゴーティエが賛嘆する。ボードレールは大衆が大騒ぎする精密なレアリズムの絵に芸術とは反対のものを見る。すばらしいドラクロワよりもメッソニエが10倍も高価なので通俗作品というものの実態を詳細に書く。だが当のドラクロワがメッソニエを称賛しているから偉大が卑小を褒めると嘆き, 一級品ばかりのなかにE・ピオのコレクションにもメッソニエが入っていると不思議がる。メッソニエにより戦争絵画は隆盛の頂点に達した。第二帝政期の軍隊の外見重用と画一論議は軍人の肖像画の歴史に, まるで神秘的な文化空間をひらいた。いまや芸術は純粋に人間的なものに傾かざるを得なかった。クールベはこのレアリズム活動のすべてである。フランス軍隊の活動のパノラマの演出家たるこれら画家たちは, つねにレアリズムの概念に影響されている。愛国思想も語られ, メッソニエを手本にしたドタイユはフランス軍が名誉をかけて敵に復讐する様子を制作しようと努める。新しい傾向は写真である。彼らは写真をスケッチの基礎にしようとする。メッソニエは「ソルフェリーノの戦いのナポレオン3世」によりこの種の絵から戦闘のレアリズムへと飛躍する。こうした絵はいつも若者の徴兵にひと役買う。メッソニエらは大型のカンバスの構成にウッチェルロを意識し, ありとある軍隊のタイプの風俗と歴史について完璧な知識をおさめ, 服装史や陶磁人形の現代神話の創造の父となり, 時代の証人たる芸術家として情熱を共にする人々を求めていた。

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