著者
森 龍丸 藤原 裕司 前田 浩二 神保 睦子 小林 正
出版者
公益社団法人 日本表面真空学会
雑誌
表面科学学術講演会要旨集 2016年真空・表面科学合同講演会
巻号頁・発行日
pp.143, 2016 (Released:2016-11-29)

グラフェンは様々な分野で注目を集めているが,我々は磁気特性に注目している.本研究では,多層の酸化グラフェンを還元し,各種処理を施し,グラフェンの磁性の変化を調査した.アルゴン雰囲気600度で還元された試料は反強磁性であったが,水素含有雰囲気600度で還元された試料の一部は強磁性的特徴を示した.また,超音波処理を行うことで磁気モーメントの増大が観測されており,強磁性グラフェンの存在が示唆された.
著者
浅海 靖恵 藤原 裕弥
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.51, 2009 (Released:2009-12-01)

【はじめに】 辞典によれば、「積極性」とは、進んでものごとを行おうとする性質とあるが、現在、理学療法士教育における臨床実習の場で「積極性がない」ことが問題にされることが少なくない。「積極性」とは何なのか?今回、臨床実習評価表、学生とのディスカッション、実習後アンケートを活用し、学生と実習指導者双方の考える「積極性」に焦点をあて検討を行ったのでここに報告する。【対象】 Sリハビリテーション学院理学療法学科、夜間コース1期生25名・昼間コース2期生36名【方法】 1.短期実習(実習I)、長期実習(実習II-1、II-2)における臨床実習評価表より最終判定に至った理由(実習指導者自由記述部分)を抜粋し、テキストマイニングの手法を用いて、実習ごとに頻出語を抽出、「積極性」の用いられ方を確認する。2.実習評価表、学生とのディスカッション、実習II-2終了後実施したアンケートを利用し「積極性」の分析を行う。【結果】 1.成績報告書の判定理由の記述において「積極」という単語が用いられた回数は63回、「実習」「評価」「患者」「思う」「今後」「知識」に次ぐ7番目に高い頻度であった。中でも、実習I、実習II-1において共起性が高かった。2.実習指導者による積極性の評価は、実習II-1とII-2において弱い相関が認められ、実習II-2については学生の自己評価との相関が認められた。3.学生アンケートにおいて、積極性が出せた群(5段階評価1,2)は41%、積極性が出せなかった群(5段階評価4,5)は29.5%であり、年齢、性別による有意差はなかった。また、学生や実習指導者が積極性の出せない理由として挙げた「PTになりたいという意欲」「実習に対する自信(不安度)」「性格」「成績」と「積極性」との相関は認められず、「スタッフとの関係性」にのみ正の相関が認められた。さらに、「実習満足度」に関連する因子として、「臨床実習後の意欲変化」「実習指導者の評価に対する納得の度合い」に次いで、「実習中の積極性」に高い正の相関が認められた。【考察】 今回の結果より、多くの実習指導者が臨床実習場面において学生が積極的に行動することを期待していることが伺えたが、「積極性」を考える際、意欲、自信、性格、成績など個人の内部に完結して存在するだけの特性として捉えるのではなく、実際には周りの環境とのやりとり(関係)のありかたなど、行動化に影響を与える因子を探ることの重要性が示唆された。
著者
藤原 裕弥 岩永 誠 生和 秀敏
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.145-155, 2007-09-30 (Released:2019-04-06)

これまでの研究において、不安は危険や脅威と関連した認知的テーマを、抑うつは無価値、無能といった認知的テーマを有することが指摘されてきた。近年、多くの研究者は、これらの認知的テーマが注意や記憶といった情報処理過程に影響を及ぼすために、不安者や抑うつ者が中性情報よりも脅威情報を選択的に処理することを報告してきた。本研究では、不安と抑うつにおける注意バイアスや記憶バイアスを検討した研究と、それらの認知バイアスを説明する理論について展望した。その結果、不安者は注意バイアスを示しやすく、抑うつ者は記憶バイアスを示しやすい可能性が示された。また、認知行動療法に対する認知情報処理論的研究の意義と貢献の可能性について考察した。
著者
藤原 裕弥 岩永 誠 生和 秀敏 作村 雅之
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.13-23, 2001-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

不安な気分状態では、脅威的な情報を優先的に処理する注意バイアスや記憶バイアスを含む認知バイアスが生じると報告されている。これまでの研究から注意バイアスは状態不安の影響を受けやすく、記憶バイアスは特性不安の影響を受けやすいと考えられている。本研究では、特性不安と状態不安が注意バイアスや潜在記憶バイアスに及ぼす影響について検討する。不安気分は嫌悪音回避課題によって操作した。30名の健常ボランティア(高特性不安者15名、低特性不安者15名)に注意バイアスを測定するdot-probe課題と潜在記憶バイアスを測定する単語完成課題を行わせた。高特性不安者は不安の程度に関係なく注意バイアスをみせ、不安が高まると潜在記憶バイアスを生起させた。一方低特性不安者は、状態不安の高まりに伴い注意バイアスを生起させた。不安状況下では特性不安にかかわらず注意バイアスが認められたことから、不安時には注意バイアスが優先されて生起する可能性が示唆された。
著者
藤原 裕弥 岩永 誠
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-12, 1999-09-30 (Released:2009-04-07)
参考文献数
28

Attentional bias to threatening information has been considered to be one of the cognitive features of anxiety mood. Although Bower's associative network theory (1981, 1991) has been used to explain attentional bias, Bower's theory is insufficient to explain the maintenance of anxiety mood. The present study aimed to investigate whether activation of a network was maintained by emotional words acquired through attentional bias. Thirty-four undergraduates who served as participants were induced into a positive mood (Positive Condition) or a negative mood (Negative Condition) through music induction and the Velten induction method. Results of a dot-probe task revealed that reaction time to probes following negative words was faster than to probes following neutral words in the Negative Condition, while reaction time to probes following positive words was not significantly different from reaction time to that of neutral words in the Positive Condition. Further, attentional bias was observed only in the negative condition. Subjective mood judgement results revealed that only negative mood was maintained in the Negative Condition. These results suggest that selective attention to threatening information can maintain a negative mood.
著者
藤原 裕美 青木 正則 川口 和幸 工田 昌也 平川 勝洋 原田 康夫
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.84, no.9, pp.1267-1272, 1991-09-01 (Released:2011-11-04)
参考文献数
22

A galvanic current may be caused in the oral cavity when two or more dissimilar metallic repair materials are present, and it is well known among dentists that severe pain, called “galvanic pain”, may result. We report two cases of glossitis thought to have been caused by oral galvanism. We measured the galvanic current in patients with glossitis and found significantly larger electric currents in the patients than in controls. We suspect that oral galvanism is the cause of glossitis when the conditions are as follows: 1) Anemia, medications, mechanical stimulation by dental repair, zinc deficiency, etc. have been ruled out; 2) Currents greater than five micro-amperes are demonstrated.
著者
藤原 裕弥 岩永 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.101-112, 2008-05-31 (Released:2019-04-06)

本研究は、不安における注意バイアスが自動的処理であるかどうか確認するために2つの実験を行った。研究1では、注意バイアスの無意識性について検討した。単語を閾下呈示する条件と、閾上呈示する条件を設定し、高対人不安者(n=13)と低対人不安者(n=13)を被験者としてdot-probe探査課題を行った。その結果、閾下呈示条件では、特性不安、状態不安にかかわらず注意バイアスは認められなかった。研究2では、注意バイアスが処理資源を必要とするかどうかを検討した。高特性不安者(n=8)と低特性不安者(n=8)を被験者とし、dot-probe探査課題中に二重課題を課した状況で注意バイアスを測定した。その結果、二重課題によって処理資源を奪われた条件では、注意バイアスが認められなかった。以上の2つの研究から、注意バイアスは無意識的処理でなく、また処理資源を必要とする処理であることが示された。このことは注意バイアスが自動的処理でない可能性を示している。
著者
鳩山 紀一郎 藤原 裕樹 岩永 陽
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.295-300, 2005
被引用文献数
3

本研究は、 PDCAサイクルの考え方による継続的な協働型まちづくりスキームを提案し、世田谷線沿線地域を対象として、地域発案型まちづくり団体である「世田谷線とせたがやを良くする会」を通じてこれを試行することによって、まちづくり手法において継続性と協働性が重要であること、本スキームによって参加者間の意識共有化効果がなされることを検証することを目的とする。結果として、継続性と協働性の重要性を確認できたとともに、点検地図などを利用した本スキームを通じて短時間ではあるが参加者間で意識が共有化されることが確認できた。今後は、一般住民へのアンケートなどを実施しつつワークショップを継続し、特に関心の高かった世田谷線の魅力向上方策を中心に具体化し、実施計画を行う予定である。近年、地域発案型のまちづくり活動団体を各地で登場している一方、行政側でも地方分権の構想が本格化しつつあり、自治体の自主性と自己決定能力が問われる時代になりつつある。従って今後は住民と行政が協働し、継続的に方策を検討し実施しては評価・診断を行っていくという構造が、まちづくり活動に一層必要なものとなると考えられる。
著者
藤原 裕
出版者
立正大学
雑誌
立正大学文学部論叢 (ISSN:0485215X)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.61A-81A, 1997-09-20

フランス芸術史上二人のメッソニエが存在する。マルセル・プルーストは少年時代, 好きな画家はと問われて, 好きな音楽家のモーツアルトとグノーとともに, 即座にメッソニエと答えている。このメッソニエとは何者であるか。まず17世紀の末にイタリアで生まれ, 後ルイ15世によって王宮の祝宴を企画準備するため, その室内装飾家に任ぜられ, また肖像画家であったジュスト=オレールである。かれはロココの装飾様式に最も貢献した建築家でもあった。華やかなサロンのパネルに想像力を駆使したその装飾作品はポーランドまで響きわたった。しかしサン・シュルピス寺院のファサードのデザインをセルヴァンドニと争ったころからネオ・クラシシズムの台頭との対決となる。もう一人のメッソニエ(ジャン=エルネスト)をもプルーストは書簡などでよく引用する。だがこの方は主として優れた芸術と比較される大衆に最も人気のある19世紀の画家である。同じ1845年のサロンの出品作品でも, フロマンタンはこれを評価し, ボードレールは失望して却ってドラクロワの偉大さを発見している。フロマンタンはこのメッソニエにオランダのメツウやテニールスのような精密さを見いだしたのである。ついにナポレオン3世を描いたメッソニエは仏学士院入りを遂げ, 《バリケード》などのレアリズム絵画により戦争画家となり, T・ゴーティエが賛嘆する。ボードレールは大衆が大騒ぎする精密なレアリズムの絵に芸術とは反対のものを見る。すばらしいドラクロワよりもメッソニエが10倍も高価なので通俗作品というものの実態を詳細に書く。だが当のドラクロワがメッソニエを称賛しているから偉大が卑小を褒めると嘆き, 一級品ばかりのなかにE・ピオのコレクションにもメッソニエが入っていると不思議がる。メッソニエにより戦争絵画は隆盛の頂点に達した。第二帝政期の軍隊の外見重用と画一論議は軍人の肖像画の歴史に, まるで神秘的な文化空間をひらいた。いまや芸術は純粋に人間的なものに傾かざるを得なかった。クールベはこのレアリズム活動のすべてである。フランス軍隊の活動のパノラマの演出家たるこれら画家たちは, つねにレアリズムの概念に影響されている。愛国思想も語られ, メッソニエを手本にしたドタイユはフランス軍が名誉をかけて敵に復讐する様子を制作しようと努める。新しい傾向は写真である。彼らは写真をスケッチの基礎にしようとする。メッソニエは「ソルフェリーノの戦いのナポレオン3世」によりこの種の絵から戦闘のレアリズムへと飛躍する。こうした絵はいつも若者の徴兵にひと役買う。メッソニエらは大型のカンバスの構成にウッチェルロを意識し, ありとある軍隊のタイプの風俗と歴史について完璧な知識をおさめ, 服装史や陶磁人形の現代神話の創造の父となり, 時代の証人たる芸術家として情熱を共にする人々を求めていた。
著者
藤原 裕樹 山下 晃弘
出版者
FIT(電子情報通信学会・情報処理学会)運営委員会
雑誌
情報科学技術フォーラム講演論文集
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.213-214, 2014-08-19

近年,人とコミュニケーションを図るために対話機能を持つロボットの開発が進んでいる.一方,スマートフォンが普及する中,SNS(Social Networking Service)の利用者が急速に増加している.特にSNSの1つであるTwitterは,1秒当たり5700件の投稿がなされており,トレンド分析や口コミ分析に利用されるなどリアルタイム性が高い.そこで,Twitterの会話データに基づいて,リアルタイム性のある新たな対話ロボットのシステムを検討した.今回は,特に発話機能に着目したシステム開発について報告する.
著者
岡部 知太 平野 一 前之園 良一 中森 啓太 藤原 裕也 南 幸一郎 上原 博史 能見 勇人 稲元 輝生 東 治人
出版者
一般社団法人 日本移植学会
雑誌
移植 (ISSN:05787947)
巻号頁・発行日
vol.57, no.Supplement, pp.s356_2, 2022 (Released:2023-02-23)

2020年より現在に至るまで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威をふるう中、コロナワクチン(以下ワクチン)の有効性が報告されている。一般人と比べて移植患者のワクチンに対する抗体反応は低いが、腎移植患者が一般人より発症リスクが高いとは断定できない。今回当院通院中の腎移植患者に対するワクチン接種によるCOVID-19発症予防の有効性に関して、文献的考察を踏まえて報告する。追跡できる範囲で2015年より現在までの当院腎移植患者に対して、ワクチン接種のアンケートを行い、回答のあった66名に対して解析を行なった。3名を除く全員が2回以上ワクチン接種を行っている。解析患者の内、5名がCOVID-19を発症した。重症1名、中等度1例、軽症3例である。重症例は、非ワクチン接種者であり、罹患後人工呼吸器下での呼吸管理を行ったが、死亡に至った。その他4名は、後遺症なく軽快した。本邦では、報告時点で約890万人の陽性報告があり、国民の約7%が罹患したことになる。当院におけるワクチン接種群において、COVID-19発症率は6.3%であり、腎移植患者が発症しやすいとは断定できない結果であった。また非ワクチン接種群3人のうち1名がCOVID-19を発症し、重症化したことを考えると、ある一定の重症化予防効果は示唆される。免疫応答が弱いことが報告されている腎移植患者にとって、ワクチンを複数回接種することは、COVID-19発症率、重症化を低減できると考える。
著者
藤原 裕也 灘本 明代
雑誌
研究報告 データベースシステム(DBS)
巻号頁・発行日
vol.2011-DBS-152, no.3, pp.1-8, 2011-07-26

フリー百科事典 Wikipedia は日本語版,英語版,などの各言語版によって記述されている情報量が異なる.故に自国の言語版だけでは情報量が不足する記事も存在する.特に文化の記事は顕著である.そこで本研究では多言語 Wikipedia を用いて,日本と海外における日本の伝統文化の紹介の差異情報を抽出し提示するシステムを提案する.具体的には,ユーザの入力した日本の伝統文化の日本語 Wikipedia と英語 Wikipedia を比較しその差分情報を提示する.この時,情報の粒度の違いから,複数の日本語 Wikipedia の記事と英語 Wikipedia の記事を比較対象とする.本論文では,この比較対象の範囲を Wikipedia のリンク構造を用いて決定する手法の提案及び多言語間の差分情報抽出手法の提案を行う.
著者
横山 操 矢野 健一郎 藤原 裕子 藤井 義久 川井 秀一
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.772-776, 2006 (Released:2006-08-20)
参考文献数
7

The purpose of this study was to propose a method of determining the aging of wood by measurement of cutting resistance. To clarify the effect of the aging of wood on the cutting resistances, it is necessary to focus on the way the restorators judges the age of wood material by taking into consideration the cutting process and the way of using the chisels (nomi).In this paper, aging is defined as “slow oxidation caused by oxygen in the air”. Base on the temperature-time conversion law, an accelerated aging test was performed by heat treatment at 180°C for 0, 120, 300, 600, 720, 2160, 3600, 5040, 7200minutes respectively to obtain different levels of accelerated aging wood samples.When restorators of Buddhist sculptures restorate ancient statues, they face various qualities of timber, according to the tree species and the age of the material used for the statue. They make decisions by visual inspection. Thus the experience and judgement of the Japanese restorators is one of the key conditions to measure the cutting resistance and types of chip formation.The orthogonal cutting test of cross, radial and tangential section were made to examine the relationships cutting resistances and treatment time of the accelerated aging of wood materials. The results were summarized as follows :1) The cutting resistances fell with increasing the accelerated aging treatment time. The cutting resistances dropped sharply in the early stages up to 1000 minutes treatment, and then reduced by 80% at 7200minutes treatment.2) The types of chip formation changed from flow type to powder with increasing the accelerated aging treatment time.3) The forces in cross sectional cutting with clearance angle 5° were three times in value with clearance angle 1°. The forces in orthogonal cutting test in radial and tangential section were almost same in value at clearance angle 1° and 5°.
著者
藤原 裕
出版者
立正大学
雑誌
立正大学人文科学研究所年報 (ISSN:03899535)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.19-40, 1997-03-20

この世を表現することが現実よりさらに重要であると,バルザックに教えられ,そうした認識に至る時間をうまく獲得できたプルーストは,稀にみる記憶力と感性の持ち主であった。自ら記憶を正確に呼び起こしたり,自分の思い出が立ち現れる奇跡をひたすら待ってついに実現したのである。その上かれは一度に多くのことを考える能力を持っており,かれの美意識のあらゆる傾向は,文学の創造に関わる芸術のさまざまな形を設定することにあった。「失われた時を求めて」の中で創造された,ベルゴット,エルスチール,ヴァントゥイュという三つの人物像のコレスポンダンスは,ワグナーの総合芸術によって説明されるにふさわしいものである。永年プルーストと音楽につき研究の旅をつづけた果実として,1967年から五十余度にわたり渡欧して,主にプルーストが愛した絵画の数々につねに接し,作品と画家の人生を踏査し,プルーストが想像したヴィジョンに近づく努力をつづけた。この論文はその一端であるが,各章のなかでは作家の絵画についての審美観がいかに劇的に生まれたかを述べる。プルーストが試みる芸術の定義は,リアリズムの概念を反駁することである。プルーストはつねに芸術家たちの作品と人生を考えていたが,これらの作品を味わいながら,その生みの苦しみを知らないことを自覚していた。かれはその師セアイユの影響で,人生の究極の真実は芸術の中にあると考え,人生を崇高なものにするのは詩人の役割であると言った。科学のたゆみない進歩に比べて,芸術の進歩についてはホメロスの時代から考えるべくもないが,芸術の諸分野のあいだには兄弟関係が存在するとみたのである。造形芸術よりもむしろ音楽について感受性が高かったプルーストは,ラスキンに導かれて絵画や建築に接近した。そしてかれの時代にあまり知られていなかったフェルメールの発見へとつながる。ラスキンの近世の画家に対する偏見や矛盾を乗り越えながら,キリスト教,建築,古都などへのラスキン的巡礼を経て獲得した,ヴェネチア及びカルパッチオの知識は,プルーストの作品におびただしい風景と表現を与えているが,残されたその草稿をみると,抹消と書き直しによって次第にまったく別の性格を帯びるに至っている。プルーストは,カルパッチオから有名なデザイナーのフォルチュニーが着想を得ているのに深い関心を寄せ,このヴェネチア派の画家の作品を細心に見つめる。また戦時中に「失われた時」の出版社を変更して,作品に対する不道徳の批判をかわしつつ,シャルリュス男爵が,カルパッチオの絵に現れる町のようにパリが軍人で彩られているのに満足していることを付言する。まことにアルベルチーヌの衣装は,カルパッチオの「聖女ウルスラ」のなかの婚約者の出発の場面や「グラードの大司教」のリアルト橋のほとりの邸の場面に見いだされるのである。オランダへの旅で始めて見たフェルメールの色彩から,プルーストはあの有名な黄色の壁面の幾重にも塗られた色の深さにあこがれる。こうしたフェルメールのアクセントは作家のいわゆる文章の手本となる。ベルゴットは死に臨んで「デルフトの風景」を見て,文学創造の神秘的な本質を把握したのであった。シャルダンについての研究を書いたプルーストは,その静物(NATURES MORTES)を生きている物体(NATURES VIVANTES)と命名し直し,それをシャルダンの最大の教訓とした。プルーストは作中人物の画家エルスチールのモデルを,ワトーの絵に現れるイタリア喜劇の俳優から得ているとはいえ,シャルダンをバルザック以前の最大の日常生活の観察者として見なしている。かれはシャルダンの教訓をエルスチールに与え,現実の物を描くのにシャルダンと同じ努力を払わせようとしたのである。しかし世間はエルスチールの上に,シャルダンの絵に好んで見られるあの時間的な遠近法を想像しようとしなかった。シャルダンは,すべての事物はこれを見つめる精神の前ではみな平等であって,誤った慣習と趣味によってとらわれた理念をわれわれに捨てさせ,光りのなかでは至るところに美があることをプルーストに確認させる。芸術家のなかには芸術が気晴らしの種と思っている者がいる。しかしルノワールの場合は必ずしもそんな底の浅いものではなく,細かい議論を拒否するものがあるが,生命の感覚的な部分に直接的にすっかり溶け込んでいる。しかしプルーストはこうした概念から逆の立場にある。かれにとって芸術は人間につきまとう人生の意義の形而上的な問いに答えるべき由々しき業なのだ。第一画家は外の写実に頼る代わりにせめて対象から着想を得て,自らの芸術的素養の限りを尽くそうとする。即ちルノワールはむしろ絵画を学ぶのに風景を見つめないで,カンヴアスを眺めていた。プルーストはクロード・モネを印象主義の精髄と見なして,モネは目前に家や野原があっても,それを青や赤の四
著者
林 伊吹 林 与志子 宇野 功 藤原 裕樹 高橋 宏明
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.666-672, 1997-09-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
10
被引用文献数
3

嚥下を観察する際, 嚥下開始の指標を決定するために, 舌骨上筋群表面筋電図を用いることが多い. これは, 被験者に非侵襲的であるため, 有用な方法とされている. しかし, 舌骨上筋群表面筋電図と実際の筋の活動とが, どのように関わつているかを確認する必要がある. 著者らは甲状舌骨筋とオトガイ舌骨筋に電極を刺入して得た筋電図と, 舌骨上筋群表面筋電図を同時記録し比較検討した.嚥下の際に, 舌骨上筋群表面筋電図波形上, 2つの波形変化を認めた. 最初におこる小さい振れと, それに続く大きい振れである. 前者をEMG1, 後者をEMG2とした. 筋電図の比較により, EMG1はオトガイ舌骨筋の活動開始点と, EMG2は甲状舌骨筋の活動開始点と強い相関を認めた.この結果より, 舌骨上筋群表面筋電図は嚥下開始の指標を決定でき, EMG1は嚥下第一期の開始を, EMG2は嚥下第二期の開始の指標を表すものと考えられた.
著者
松本 美涼 藤原 裕弥 尾形 明子
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.18, pp.149-158, 2019-03-31

The current study sought to investigate the relationship between the focus of attention and state anxiety during a public speaking situation involving social anxiety . In a preliminary investigation, undergraduate students responded to a questionnaire based on the Two-dimensional Social Phobic Tendency and Narcissistic Personality Scale-Short version (TENS-S). A previous study using the TENS-S suggested that social anxiety could be divided into two subtypes (high anthropophobic tendency and high narcissistic personality, or high anthropophobic tendency and low narcissistic personality). The high anthropophobic tendency and high narcissistic personality group (HH group) was predicted to exhibit increased anxiety with self-focused attention and other-focused attention. The high anthropophobic tendency and low narcissistic personality group (HL group) was predicted to exhibit increased anxiety with other-focused attention. After screening, 30 undergraduate students were divided into one of three groups based on their questionnaire scores; HH group (n = 8), HL group (n = 9), and low social anxiety group (n = 12). Participants were asked to undertake a speech task to increase state anxiety. Following the speech task, participants rated the direction of changes in attention and the level of state anxiety. The results indicated that self-focused attention and other-focused attention were facilitated in public speaking situations.
著者
藤原 裕子
出版者
霞山会
雑誌
中国研究論叢
巻号頁・発行日
no.8, pp.87-115, 2008-08