著者
君塚 淳一
出版者
青山学院女子短期大学
雑誌
青山学院女子短期大学総合文化研究所年報 (ISSN:09195939)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.147-154, 2001-12-25

ポール・オースターはようやく,この作品で自身のユダヤ系アメリカ人としてのアイデンティティを確立する方法を見つけたように思える。第8作目にあたるこの『リヴァイアサン』で彼は,舞台を1880年代の祖先が合衆国へ移民した時代まで遡ることになる。建国以後の少数派を抑圧し虐殺したアメリカの偽善の歴史を作品で提示することで,ベンジャミン・サックスという現代版ヘンリー・デイヴィッド・ソーローに,この国が「自由の女神」に象徴される理想に忠実かどうか問わせ自由の女神のレプリカを爆破し続けさせるのである。またこの作品が現代アメリカの抱える問題に触発され描かれたことも明らかで,出版年にはロドニー・キングのロス暴動が起き,また前年には湾岸戦争が勃発している。

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