著者
永田 浩
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.103-105, 1992-12-31

永久磁石材料の研究はモーターやアクチュエーターなどの電気部品の小型化,軽量化,高性能化,省エネルギー化に寄与できることなどから,学界や産業界において現在も精力的に研究開発が進められている。Nd-Fe-B系永久磁石材料はNd_2 Fe_<14>B型金属間化合物を主相とする永久磁石材料の総称であり,1983年に発見された。一方,Sm-Fe-N系永久磁石材料は既知のSm_2 Fe_<17>金属間化合物(Th_2 Zn_<17>型結晶構造)の結晶格子間位置に窒素(N)を侵入することにより得られる侵入型窒化物Sm_2 Fe_<17>Nxを主相とする新永久磁石材料の総称であり,1990年に発見された。本論文は,この両永久磁石材料をモデル物質として採り上げ,基礎・応用の両面から総合的に研究した結果をまとめたものである。以下に両系の研究目的,実験結果並びに検討結果を要約する。1.Nd-Fe-B系永久磁石材料 Nd-Fe-B系永久磁石材料は主相であるNd_2 Fe_<14>B化合物相の持つ大きい飽和磁化(I_s=1.6T),高い磁気変態温度(キュリー温度 : Tc=573K),大きな一軸磁気異方性(μoH_A=8T,K_1=4.5MJ/m^3)などにより,最大エネルギー積(BH)_<max>==320kJ/m^3(40MGOe)の永久磁石材料として知られている。Nd_2 Fe_<14>B型化合物は空間群がP4_2/mnmである正方晶構造をとり,NdとBは特定のc面のみに存在する層状構造を持つ。その単位胞は4分子式68個の原子から構成されている。本研究では単結晶試料,粉末冶金法により作製した単相焼結体試料および焼結永久磁石体試料を用い,以下の2つの課題研究を行い,その結果について考察を加えた。(1) R_2 Fe_<14>B化合物(R==Y,Ce,Nd,Tm)の比熱,熱膨張,キュリー温度の圧力効果 Nd-Fe-B系永久磁石材料の主相であるR_2 Fe_<14>B化合物について比熱の測定を行い,デバイ温度,電子比熱,スピン再配列に伴う潜熱の値を求めた。その結果,Y_2 Fe_<14>Bに対して電子比熱係数γ=86 J mol^<-1> K^<-2>,デバイ温度θ_D=400Kを得た。またスピン再配列に伴う磁気エントロピー変化△S=16 J mol^<-1> K^<-2> (R=Nd),および△S=0.2 J mol^<-1> K^<-2> (R=Tm)を得た。電子比熱係数γの実験値は最近のバンド計算より得た値の約2倍の大きさであり,理論的計算が未だに十分でないことを示している。またY_2 Fe_<14> Bの4.2&acd;293Kでの比熱の測定結果はデバイ近似により計算されたフォノンの比熱,分子場近似により計算されたFeの磁気モーメントの磁気比熱,電子比熱の総和により良く表わされることを見いだした。ただし,説明に必要な分子場係数の値はTcから評価した値よりも小さく,Feの磁気モーメントの遍歴性を示唆している。熱膨張はキュリー温度以下でインバー効果的な異常熱膨張を示した。さらに,単結晶試料の測定結果よりこの異常熱膨張は大きな異方性を示し,Tc以下の温度領域ではa軸方向がc軸方向より大きな異常熱膨張を示すことを明らかにした。この異常熱膨張による自発体積磁歪の大きさは0Kで2.4%であり,希土類化合物の中では異常に大きな値であった。さらにTc以上の温度領域でもc軸方向に大きな異常熱膨張が存在することを見いだした。R_2 Fe_<14>B型化合物のキュリー温度Tcの圧力効果を6GPaまでの圧力下で測定した。Tcの圧力効果(∂Tc/∂P)は-30&acd;-100K/GPaの大きさで,圧力依存性を示しながら低下した。Ce_2 Fe_<14>Bに於ては加圧,昇温中にTcが異常上昇することを見いだした。このTcの異常昇温は,この化合物中のCe原子の圧力誘起価数変化によるとみられるが詳細は不明である。得られた圧力効果の結果をR-Fe 2元系金属間化合物に対して得られた結果と比較した結果,R_2 Fe_<14>B 3元系化合物のキュリー温度の圧力依存性は通常の遍歴電子モデルでは説明出来ないことを示した。(2) Nd-Fe-B系永久磁石材料の保磁力並びに保磁力の温度特性 Nd-Fe-B系永久磁石材料は,キュリー温度Tcが593Kであるが,保磁力の大きな温度変化(減少)が実用上の大きな障害になっている。これまで希土類永久磁石の保磁力の温度変化に関して理論的取り扱いはされていたが,実験的な確証は得られていなかった。本研究ではこの点に着眼し,Pr_2 Fe_<14>B単結晶試料を作製し,その異方性磁界H_A,飽和磁化I_sの温度変化を測定し,加えてこの化合物を主相とする焼結永久磁石体を作製し,保磁力H_<CI>の温度変化を測定した。その結果,保磁力H_<CI>は広い温度範囲にわたりμo H_<CI>=C・μo H_A-N・I_s(NとCは定数)の関係で表わされることを実証した。またNd_2(Fe_<1-x> Co_x) _<14>Bの単結晶試料を作り,H_AとI_Sの温度変化を測定した。その結果,前式により,Nd-Fe-B系永久磁石材料の保磁力の温度特性の改善にCoの添加は有効でない原因をつきとめた。

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