著者
山中 明
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.169-172, 2001

第1章序論 生物は,地球上の環境に適応するため様々な多様性を進化の過程で獲得してきた。特に,動物界で種・個体数ともに圧倒的な数を占める昆虫の繁栄は,そのずば抜けた適応能力の多様性に他ならない。昆虫は変態や休眠という機構を持つ一方で,個々の形態や色彩をその環境や季節に適合させる機構を持つことにより,種多様性を保っていると考えられる。後者の発現調節機構も神経内分泌系が関与していると考えられているが,実体の明らかになったものは非常に少なく,分子機構などについてはまだ不明な点が多い。本研究では,最初にナミアゲハの環境適応機構(蛹および幼虫体色に関わる内分泌調節機構)および季節適応機構(成虫の季節型に関わる内分泌調節機構)について,続いて,カイコガ(大造)の季節適応機構についての解析を行った。第2章ナミアゲハの蛹表皮褐色化ホルモンの抽出とその部分的な特徴づけ ナミアゲハ非休眠蛹には,緑色および褐色の蛹体色が存在する。このような蛹体色の発現には,環境条件として,匂い,光,湿度のほか,蛹化する場所の性質(粗滑)が関係している。一方,神経内分泌学的研究により,褐色の蛹となるためには,脳で生産され前蛹期の後期に前胸神経節から分泌される褐色化ホルモンが関与していることが示唆されている。今回,ナミアゲハ前蛹個体の結紮腹部を用い,蛹表皮褐色化ホルモン(Pupal-cuticle-melanizing-hormone; PCMH)活性を定量化する生物検定方法の確立,ナミアゲハ緑色蛹の脳-食道下神経節一前胸神経節(Br-SG-PG)連合体からのPCMH抽出方法の検討を行い,更に,PCMHの諸性質を検討した。また,カイコガ成虫のBr-SG連合体からのPCMH活性物質の抽出も試みた。その結果,前蛹個体の結紮腹部を用いる生物検定方法により,PCMH活性を定量化することができた。この生物検定方法を用い,Br-SG(-PG)連合体を破砕し,5種類の粗抽出液画分を調製したところ,PCMHおよびPCMH活性物質は2%NaCl粗抽出液画分に抽出された。更に,諸性質を検討した結果,ゲル濾過クロマトグラフィーによりPCMH活性物質の分子量はおよそ3,000-4,OOODaであり,陽イオン交換体に吸着すること,C18逆相カラム樹脂に吸着し,26-34%アセトニトリル画分に溶出されることが分かった。第3章ナミアゲハの蛹体色に及ぼすホルモン因子の影響 前章より抽出が可能となったナミアゲハPCMHあるいはカイコガPCMH活性物質以外に,ナミアゲハ蛹体色の褐色化に作用する物質が存在するかどうかを調べるため,他の既知の昆虫生理活性物質が関与しているかどうかの検討を行った。実験に使用した昆虫生理活性物質は,幼若ホルモン,エクダイソン,フェロモン生合成活性化ペプチド(PBAN),カイコガ夏型ホルモン活性物質および幼若ホルモン様物質(メソプレン)であった。前章の生物検定方法を用い,蛹表皮褐色化の促進効果の影響を調べた。使用した昆虫生理活性物質は,ナミアゲハ前蛹の結紮腹部を褐色にする作用は認められず,カイコガPCMH活性物質のみが,蛹表皮の褐色化の促進をした。また,褐色蛹条件下のナミアゲハ前蛹腹部(無結紮個体)にこれらの昆虫生理活性物質を投与し,蛹表皮褐色化の阻害効果の影響を調べたところ,これらの昆虫生理活性物質は,蛹表皮褐色化を阻害する効果も認められなかった。以上より,ナミアゲハにおいて蛹表皮の褐色化の引き金となる物質は,PCMHであることが示唆された。第4章ナミアゲハ幼虫体液からのビリベルジン結合蛋白質の精製とその特徴づけ ナミアゲハ非休眠蛹体色には,緑色と褐色があり,また,幼虫期の体色は4齢までは黒色で5齢では緑色となる。これらの体色変化は,生育環境条件への適応であると考えられている。両生育段階における緑色の体色発現には,青色色素(ビリベルジン)が重要な役割を果たしていると考えられる。そこで,この色素を体内にとどめる働きをするビリベルジン結合蛋白質が,蛹期および幼虫期の体色発現においてどのような挙動をしているのかを捉える目的のため,ビリベルジン結合蛋白質(BP)の精製を試みた。5齢幼虫体液から,BPを,飽和硫安分画,ゲルろ過クロマトグラフィー,陽陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製した。精製されたBPの分子量は,SDS-PAGEで21kDa,ゲルろ過で24kDaと算出され,単量体であった。本精製蛋白質は,吸収スペクトルからビリベルジンIXを結合していることが示唆された。本蛋白質のN末端から19個のアミノ酸配列を決定したところ,オオモンシロチョウ(Pieris brassicae)のビリン結合蛋白質のN末端アミノ酸配列と42%の相同性を示した。これらの結果から,本精製BPは,insecticyanin型蛋白質であることが示唆された。第5章ナミアゲハの夏型ホルモン存在の証拠 ナミアゲハは,幼虫期の光周温度条件により2つの季節型(夏型と春型)が生ずる。夏型は,脳から分泌される体液性因子によって決定されると考えられている。

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