- 著者
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伊藤 規子
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.3, pp.209-229, 2000-08-25
英国の空港産業は,英国空港公団の民営化(BAAに企業名変更)と地方自治体空港の会社化を中心とする規制改革を1987年に経験した。BAAのロンドン3空港および,公的セクターにとどまるマンチェスター空港は,「指定空港」となり,空港使用料の水準について,プライス・キャップ方式での新たな規制が課されている。この方式は,「平均収入方式」である。「タリフ・バスケット方式」との比較からこの方式を考察した文献がいくつかあり,「平均収入方式」が,料金体系に関しての効率性の歪みを生じさせる可能性が示唆されてきた。指定空港の空港使用料に関する平均収入方式は特殊で,収入には乗客料金以外に,着陸料や駐機料からのコントリビューションがあるにもかかわらず,収入を「平均」するための分母に乗客数しか適用されていない形になっている。本稿では,この「空港型平均収入方式」のモデル化を行い,料金とコストのマークアップ比の表現を使って,効率性に関する予見を行った。これに対して,BAAの料金比率に関しての実際のデータを使った検証では,予見を裏付けてはいないことがわかった。規制メカニズムとして考え出されたプライス・キャップ方式とは,元々,水準制約の下で短期的利潤最大化をめざすという企業行動が念頭に置かれていたわけであるが,むしろ,BAAの行動に関する限り,資本ベースの拡大などの戦略を通じての長期的な利潤の最大化といったものがより重視されている可能性があると考えられる。