- 著者
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甲 美花
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.6, pp.117-143, 2002-02-25
本稿は,従来「組織人」と呼ばれた事務系ホワイトカラーを多面的に捉え,組織コミットメント,プロフェッショナル・コミットメント,二重コミットメントヘの影響要因を分析し,さらにそれぞれのコミットメントがもたらす結果要因について実証したものである。製造業とサービス業13社から180名の従業員を対象にした質問紙調査を実施した結果,次の3点の影響要因が確認された。第一に,個人の「キャリア志向」において,プロフェッショナル志向と組職人志向の両方が二重コミットメントに影響を与えるだろうと仮定したが,実際には,組織人志向のみが影響を与えていることが確認される。第二に,「職務特性」を表わす項目が,各コミットメントにさほど強い影響を及ぼしていないことが明らかになっている。その理由としては,よく指摘される日本企業の職務概念の曖昧さに起因していると思われる。第三に,職務満足を表わす項目の中で,「人間関係」という要因は,特に日本企業において重要視されてきたが,今回の研究結果は,いずれのコミットメントにも影響を与えていないことが明らかになっている。つまり,日本型経営の特徴である上司や同僚との間の相互依存する人間関係重視は,すでにコミットメントの影響要因ではなくなっていることを示唆している。各コミットメントがもたらす結果要因については,二重コミットメントが所属組織の「業績」と「転職意志」に有意な影響を与え,組織コミットメントが「転職意志」に影響を与えることが,今回の研究で明らかになった。従来,日本的経営を支えてきた組織コミットメントの高い組職人が高い業績を上げつつ,長期に定着してきたが,今回の研究で組織と専門性に二重コミットメントする人達(ここではプロ組職人と言う)が高い業績を上げると同時に,企業に定着するという分析結果が出たことが新たな発見である。