著者
児玉 昌己
出版者
長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部
雑誌
純心人文研究 (ISSN:13412027)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.89-127, 1998-03-01

アムステルダム条約はEU条約の改正を目的として、1996年3月29日にイタリアはトリノでの政府間会議でその交渉が開始され、1年3ヵ月を要して97年10月2日、アムステルダムにおいて調印に至った。本稿では、EU条約の規定に従い、交渉され調印されたアムステルダム条約成立に至る経緯、そしてその条約の特色を概観し、欧州議会が1997年11月19日に本会議で行ったアムステルダム条約に関する批准勧告決議の内容と、各欧州政党のその決議についての対応を見た。結論的にいえば、アムステルダム条約は、理事会の特定多数決に際して各加盟国の持ち票の再配分問題や、欧州委員会の委員の数などの決定という制度的な面でほとんど前進しなかったが、これらの否定的側面を埋めて余りある多数の改善が見られたといえる。特に欧州議会との関連でいえば、共同決定手続の拡大に見られるように、欧州議会の立法過程での関与はいっそう進んでいる。拡大を前にして、意思決定の簡素化、民主的正当性の確保を実現していかねばならないEUにあっては、これは必然的な動きとして位置づけられるものである。欧州議会のアムステルダム条約に対する評価は、それを不満足としながらも一定の前進と捕らえ、この批准を加盟国に求めるものであった。だが、同時に欧州議会は政府間会議をすでに「古典的外交」と位置づけ、次回の条約改正では、機関間協定を結ぶことにより、EU条約の改正規定をバイパスする形で、欧州議会が政府間会議に直接関与でき、改正規定に同意手続を導入するよう動く方向をいっそう明らかにした。また欧州委員会が発議権を行使し、条約改正草案の策定を行うよう求め、欧州議会の意向を代弁させるように動こうとしている。他方、欧州統合が深化するにより、欧州統合を進める勢力と、国家主権のこれ以上の移譲に反対する欧州議会の反欧州統合派、および加盟国議会の一部勢力との関係は、今後深刻さをますであろうということも予見できる。EUによる欧州統合は「深化」と「拡大」を繰り返しながら、EU機関、加盟国政府、議会、そして欧州議会の各勢力の激しい確執の中で、21世紀に向かう政治体の性格を明らかにしていくと見られる。欧州議会自身の次回の政府間会議への関与の仕方、そして権限拡大は、21世紀には加盟国が25にもなる可能性を秘めたEUの「統治」(governance)の性格を規定するものとして、今後も極めて注目される。

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