- 著者
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竹内 孝之
- 出版者
- 同志社大学
- 雑誌
- 同志社政策科学研究 (ISSN:18808336)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, no.1, pp.331-346, 2003-03
研究ノート香港の返還に伴う80 年代から今日までの香港政治経済の変化を、財界内部の変化と政府の関係から分析した。香港は自由放任経済といわれるが、実際はサービス産業には独占やカルテルが政府によって認めらている。また、末端の行政においても、各種委員会を設け、関連する企業の意向が反映される制度になっている。そのため、(返還前)香港政庁と英資財閥との関係は植民地体制下の癒着関係に見える。だが、1970年代より華資財閥が規模を拡大し、英資財閥の企業や財閥そのものを買収する例も見られた。その背景には、英資を支えていた香港上海銀行が華資財閥に買収資金を貸与した他、所有株式を譲渡するなどの支援を与えたことがある。また、香港政庁も華資財閥による英資企業・財閥の買収を妨害しなかった。つまり、英資財閥と香港政庁は互いの利益を守るために、癒着関係を形成してはいたが、必ずしも華資財閥を政治的に排除するものではなかった。そのため、中国政府は、中資企業を通して香港経済の脱植民地化(英資の特権排除と華資との協力)を試みるが、必ずしも華資財閥の利益には結びつかず、単に中資企業が利権を獲得しただけに終わる場合もあった。返還後は海運会社会長だった董建華が行政長官に就任し、華資財閥が香港の政治経済を掌握した。さらに、官僚の権限を財界人へ移すための閣僚制度の導入も検討されている。だが、政策の公平性や整合性に欠けるなど問題も出始めている。