- 著者
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小菅 健一
- 出版者
- 山梨英和大学
- 雑誌
- 山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, pp.53-66, 1994-12-10
本稿は、日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した川端康成の記念講演である「美しい日本の私」という小品の存在を、日本の伝統的な文化や自分の作品などを紹介するための単なるエッセイとしてではなく、既成の小説の概念に対して疑義を呈して、新たな小説論を展開していくためのマニフェストの役割を果たす作品として位置づけて、考察を繰り広げたものである。内容の構成としては、表現対象(小説素材)にあたる四季を代表する自然景物の指摘をめぐる"一対一"対応的な<ことば>の存在の問題を前提にして、表現主体と表現対象の問に横たわっている、本来ならば、絶対に乗り越えることのできない距離(優劣関係)を完全に無化して同一の地平に等置することによって、より豊かな表現(作品)を目指していこうとする、<万物一如思想>の理論体系に裏付けられた堅固な創作意識の確立の問題へと論を進めて、実際の作品構築において、選択された表現対象に必然的に付与される<ことば>の"象徴"作用に、表現主体がすべて身を委ねていく創作行為の提唱へと結びつけていくことを意図した作品であると捉えて、理論書として読み解いていくことの必要性を述べたものである。