- 著者
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寒川 一成
- 出版者
- 日本応用動物昆虫学会
- 雑誌
- 日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.3, pp.132-138_1, 1971
- 被引用文献数
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1) ウンカ・ヨコバイ類,トビイロウンカ,ヒメトビウンカ,ツマグロヨコバイ,およびイナヅマヨコバイ,が摂食時口針を植物組織中に挿入しつつ分泌する口針鞘物質の唾腺での産生組織,およびその物質が分泌された後凝固し口針鞘を形成する機構について,唾腺分泌物の組織化学的分析結果にもとづき検討した。<br>2) 口針鞘物質の主成分はウンカでは唾腺A組織,またヨコバイでは唾腺IV組織から分泌される蛋白性物質であり,その他に前者ではG・H組織,後者ではV組織に由来するリポイド性物質の一部分が凝固反応時混入する。このリポイド性物質の本来の役割は口針鞘物質が急速に凝固する際,口針に固着することを防止することであると考えられた。<br>3) 口針鞘物質の凝固硬化はキノンタンニング様反応によって促進される。ウンカの場合は唾腺E組織に存在するポリフェノール酸化酵素によって生産されるキノン物質が,またヨコバイの場合は唾腺IV組織から蛋白性物質と共に分泌されるポリフェノール化合物が,V組織から口針外へ直接分泌されるポリフェノール酸化酵素によって酸化され生じるキノン物質が,蛋白性物質と反応し凝固させると考えられた。また唾腺の分泌管内あるいは小腮刺針の唾液溝内で口針鞘物質の凝固反応が起ることを防止するために,口針鞘形成に際してまず蛋白性物質が分泌され,その後からキノン物質またはポリフェノール酸化酵素が分泌されていることが暗示された。<br>4) 口針鞘物質の主成分である蛋白性物質が遊離SH基を有することを示す組織化学反応は得られず,SH基の自動酸化の結果生じる蛋白分子間のジサルファイド結合によって口針鞘物質が凝固するという可能性は否定的であった。<br>5) 口針鞘は下唇溝の延長として植物組織内で大小腮刺針を結束するとともに,大腮刺針に支持点を与え,小腮刺針を能率的に前進させる機能を有すると考えられた。