著者
中野 信子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.311-321, 1993-12-01

戦争詩人であり,オックスフォード詩学教授であったR.Gravesも,今では白い女神に取り憑かれた気難しい蒼古的な詩人として,女神神話の文脈でのみ,時折振り返られるだけとなった。しかし,筆者には,それ以前に彼を女神信仰へと駆り立てていった何か前駆的な力があったように思える。その力とは,キリスト教であり,キリストその人であった。そして,この力への強烈なアンタゴニズムと,歪曲されたイメージに駆り立てられ,詩人は長い労苦の末,ようやく自身の自己証明に行き着いた。私見ではこの過程には3つの側面があり,1)彼は,他者を否定することで自己の確立を図る詩人であったこと,2)この自己確立のドラマでの主役は,「思い上がり」という名の堕落天使であったこと,3)この思い上がりの罪は,人間の内部に棲む不吉な概念としてではなく,むしろ人を悲劇の袋小路へ追い詰めて行く美学的死刑執行人として捉えられていることである。聖書と歴史の書き換え作品を通して,この過程を追ってみた。

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こんな論文どうですか? 思い上がりと袋小路の美学 : Robert Gravesの歴史の英雄たち(中野信子),1993 http://id.CiNii.jp/FRtHL
こんな論文どうですか? 思い上がりと袋小路の美学 : Robert Gravesの歴史の英雄たち(中野信子),1993 http://id.CiNii.jp/FRtHL

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