- 著者
-
中野 信子
- 出版者
- 学校法人 産業医科大学
- 雑誌
- 産業医大誌 (ISSN:0387821X)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, no.1, pp.93-108, 1984
ロバート・グレイブスは, 英国やアメリカでは著名な神話学者であり詩人である. しかし, わが国に於ては, その厖大な, しかも多岐にわたる作品の量にもかかわらず, なぜかあまり知られていない. さらに, アメリカや英国に於てさえ, ある人々は, 彼を白い女神にとり憑かれた多芸なる偶像崇拝者として, 敬遠しているきらいさえある. 実際, キリストの生涯を描いたフィクション「キング・ジーザス」が世に出た時, その白い女神信仰を基盤としてひき出された, 彼の並はずれた神話的キリスト学は, 当時の人々に強い衝撃を与えたであろうことは, 想像するに難くない. キリストの中に, 彼はユダヤ教のアポロ的教義とは対称的な, 女性原理の断片を発見したが, しかし, 彼の目には, それは甚だ不完全で, 人生の根本的な要素, つまり, 愛と憎しみの理念を欠いているように見えたのである. これは, グレイブスが, 彼の博学を駆使して, いかに自分のキリスト理解をおしすすめているか, その背景と発展の過程を追求した一考察である.