著者
中野 信子
出版者
新潮社
雑誌
新潮45
巻号頁・発行日
vol.33, no.9, pp.82-85, 2014-09
著者
中野 信子
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-108, 1984-03-01 (Released:2017-04-11)

ロバート・グレイブスは, 英国やアメリカでは著名な神話学者であり詩人である. しかし, わが国に於ては, その厖大な, しかも多岐にわたる作品の量にもかかわらず, なぜかあまり知られていない. さらに, アメリカや英国に於てさえ, ある人々は, 彼を白い女神にとり憑かれた多芸なる偶像崇拝者として, 敬遠しているきらいさえある. 実際, キリストの生涯を描いたフィクション「キング・ジーザス」が世に出た時, その白い女神信仰を基盤としてひき出された, 彼の並はずれた神話的キリスト学は, 当時の人々に強い衝撃を与えたであろうことは, 想像するに難くない. キリストの中に, 彼はユダヤ教のアポロ的教義とは対称的な, 女性原理の断片を発見したが, しかし, 彼の目には, それは甚だ不完全で, 人生の根本的な要素, つまり, 愛と憎しみの理念を欠いているように見えたのである. これは, グレイブスが, 彼の博学を駆使して, いかに自分のキリスト理解をおしすすめているか, その背景と発展の過程を追求した一考察である.
著者
中野 信子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-108, 1984

ロバート・グレイブスは, 英国やアメリカでは著名な神話学者であり詩人である. しかし, わが国に於ては, その厖大な, しかも多岐にわたる作品の量にもかかわらず, なぜかあまり知られていない. さらに, アメリカや英国に於てさえ, ある人々は, 彼を白い女神にとり憑かれた多芸なる偶像崇拝者として, 敬遠しているきらいさえある. 実際, キリストの生涯を描いたフィクション「キング・ジーザス」が世に出た時, その白い女神信仰を基盤としてひき出された, 彼の並はずれた神話的キリスト学は, 当時の人々に強い衝撃を与えたであろうことは, 想像するに難くない. キリストの中に, 彼はユダヤ教のアポロ的教義とは対称的な, 女性原理の断片を発見したが, しかし, 彼の目には, それは甚だ不完全で, 人生の根本的な要素, つまり, 愛と憎しみの理念を欠いているように見えたのである. これは, グレイブスが, 彼の博学を駆使して, いかに自分のキリスト理解をおしすすめているか, その背景と発展の過程を追求した一考察である.
著者
中野 信子
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.311-321, 1993-12-01

戦争詩人であり,オックスフォード詩学教授であったR.Gravesも,今では白い女神に取り憑かれた気難しい蒼古的な詩人として,女神神話の文脈でのみ,時折振り返られるだけとなった。しかし,筆者には,それ以前に彼を女神信仰へと駆り立てていった何か前駆的な力があったように思える。その力とは,キリスト教であり,キリストその人であった。そして,この力への強烈なアンタゴニズムと,歪曲されたイメージに駆り立てられ,詩人は長い労苦の末,ようやく自身の自己証明に行き着いた。私見ではこの過程には3つの側面があり,1)彼は,他者を否定することで自己の確立を図る詩人であったこと,2)この自己確立のドラマでの主役は,「思い上がり」という名の堕落天使であったこと,3)この思い上がりの罪は,人間の内部に棲む不吉な概念としてではなく,むしろ人を悲劇の袋小路へ追い詰めて行く美学的死刑執行人として捉えられていることである。聖書と歴史の書き換え作品を通して,この過程を追ってみた。