著者
庄野 千鶴 川口 雅正 鈴木 宣弘
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.259-296, 2001-02

以上のように品目ごとに述べた輸出補助金の影響を要約すると以下のとおりである. 1)輸出補助金の増額は, 当該国(輸出補助金を導入した国)において生産量増加, 輸出量増加, 国内価格の上昇をもたらす. 一方, 大半の非当該国においては, 国内価格の低下を招き, 特に非当該国が輸出国の場合はその輸出が抑制され, 当該国近隣の市場へは参入しづらくなる. また当該国近隣の輸入国においては輸入が促進され, これまでの輸入先が当該国へとってかわる可能性がある. 当然のことながら, 輸出補助金政策は, 当該国の輸出を促進させるためのものであるが, 他の輸出国や輸入国に大きな影響を与えることは言うまでもない. なお, 輸出補助金減額の場合は, 上述の傾向と逆の傾向が示される. 2)輸出補助金の増額によって, 当該国では正味の輸出量の増加を招くと同時に, 国内価格の上昇のため輸入量も増加する. したがって, 当該国では生産量は増加するものの, その内訳は輸出向け生産が拡大し, 国内向けの生産が減少する傾向を示す. 3) しかしながら, 現実にはEUの場合, 生乳クォータ制度が併用されており, 無限に輸出を増やすことは不可能である. 輸出補助金を増加する場合, 生乳クォータ制度が併用されていなければ, EUほ再び財政逼迫に直面する. 4)逆に輸出補助金撤廃の方向へ進めば, 生乳クォータ制度も同時に廃止しなければ, 生産者は, 激化する国際競争に太刀打ちできないというジレンマに直面する. 5)本稿では1国のみが輸出補助金を導入する場合を想定し, シミュレーション分析を行った. そのことによって, 上述のとおり輸出補助金の影響を明確に抽出することができた. 現実には輸出補助金制度はオーストラリアや米国も導入しているが, 輸出補助金の影響はどの国においても本シミュレーションの場合と同様であると考えられる. EUやカナダに対する輸出補助金批判が続いているが, オーストラリアや米国も含めて輸出補助金の削減はすべての国が一斉にしなければ意味がない. そうでなければ, 輸出補助金制度を温 存している国だけが有利となり, 到底公正な国際競争は成立し難い.

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