著者
髙橋 昂也 前田 幸嗣
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.27-38, 2015-02

日豪EPAが2014年4月に大筋合意に至り,豪州産牛肉については,セーフガードを設定した上で,冷凍牛肉の関税率は19.5%,冷蔵牛肉の関税率は23.5%まで,それぞれ段階的に引き下げられることが決定した。また,現在,わが国が参加している環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では,日米の協議において,牛肉の関税水準およびセーフガードが争点の1つとなっている。以上のようにわが国では現在,関税削減などによる国産牛肉生産への影響が懸念されているところである。そこで,本稿では,わが国における牛肉の貿易自由化に関する計量経済研究のサーベイを行い,牛肉の貿易自由化の影響を計量経済学的に分析する際の課題を明らかにする。
著者
庄野 千鶴 川口 雅正 鈴木 宣弘
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.259-296, 2001-02

以上のように品目ごとに述べた輸出補助金の影響を要約すると以下のとおりである. 1)輸出補助金の増額は, 当該国(輸出補助金を導入した国)において生産量増加, 輸出量増加, 国内価格の上昇をもたらす. 一方, 大半の非当該国においては, 国内価格の低下を招き, 特に非当該国が輸出国の場合はその輸出が抑制され, 当該国近隣の市場へは参入しづらくなる. また当該国近隣の輸入国においては輸入が促進され, これまでの輸入先が当該国へとってかわる可能性がある. 当然のことながら, 輸出補助金政策は, 当該国の輸出を促進させるためのものであるが, 他の輸出国や輸入国に大きな影響を与えることは言うまでもない. なお, 輸出補助金減額の場合は, 上述の傾向と逆の傾向が示される. 2)輸出補助金の増額によって, 当該国では正味の輸出量の増加を招くと同時に, 国内価格の上昇のため輸入量も増加する. したがって, 当該国では生産量は増加するものの, その内訳は輸出向け生産が拡大し, 国内向けの生産が減少する傾向を示す. 3) しかしながら, 現実にはEUの場合, 生乳クォータ制度が併用されており, 無限に輸出を増やすことは不可能である. 輸出補助金を増加する場合, 生乳クォータ制度が併用されていなければ, EUほ再び財政逼迫に直面する. 4)逆に輸出補助金撤廃の方向へ進めば, 生乳クォータ制度も同時に廃止しなければ, 生産者は, 激化する国際競争に太刀打ちできないというジレンマに直面する. 5)本稿では1国のみが輸出補助金を導入する場合を想定し, シミュレーション分析を行った. そのことによって, 上述のとおり輸出補助金の影響を明確に抽出することができた. 現実には輸出補助金制度はオーストラリアや米国も導入しているが, 輸出補助金の影響はどの国においても本シミュレーションの場合と同様であると考えられる. EUやカナダに対する輸出補助金批判が続いているが, オーストラリアや米国も含めて輸出補助金の削減はすべての国が一斉にしなければ意味がない. そうでなければ, 輸出補助金制度を温 存している国だけが有利となり, 到底公正な国際競争は成立し難い.
著者
今橋 朋樹 狩野 秀之 前田 幸嗣 Imahashi Tomoki Kano Hideyuki Maeda Koshi
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.241-250, 2008-10

Recently, food mileage is remarkable as the index that unites the production of food and environmental problems or the safety and the anxiety problems of food. The food mileage shows the size of the energy spent on transportation, and it can be said that the larger this value becomes, the larger environmental load grows. Moreover, it suggests that the risk and the anxiety to food increase. As mentioned above, measuring the food mileage plays an important role in analyzing various problems of food. However, in the past paper, the food mileage was calculated at certain point of the past time, so it was not simulated how this value changes under the various policies change. Therefore, in this paper, by applying the spatial equilibrium model developed by Maeda and Kano (2008), we analyze the influence to the food mileage of the shift in policy. Concretely, we measure the each food mileage about the international rice trade under the situation that the present foreign trade policy is maintained and the situation that the trade liberalization progresses and the tariff and the tariff quota are abolished completely in all countries. As a result, when thinking all countries, the food mileage increases about 4.451 times under the situation of the trade liberalization. Moreover, by analyzing the factors of an increase of the food mileage, it became clear that the influence in each country is different. The left problem includes that how to build the value of the food mileage into the policy. Moreover, when the policy is executed, it is important to calculate other environmental indicators by applying the spatial equilibrium model similarly.本稿では,コメに関する貿易の自由化という政策の変更によるフード・マイレージの変化を計測し,さらにその変化の要因から,各国に現れる影響を明らかにした.その結果,フード・マイレージは,一部の国(アメリカ,ブ ラジル,インド)においてわずかに減少するものの,分析対象国全体でみると約4.451倍になることが明らかとなった.また,各国に現れる影響は,環境に関する負荷の増大,食料に関わるリスク・不安感の増大など,様々に異なることが明らかとなった. 最後に,残された課題を提示することによって本稿を結びたい.第1の課題は,フード・マイレージと施すべき政策との関係である.つまり,分析により得られた値をいかに環境あるいは食の安全性に関する政策に結びつけるかといった具体的な手段の開発が挙げられる. 第2の課題は,他の環境指標への空間均衡分析の応用可能性の検討である.貿易に関連して利用される主な環境指標には,中田(2003)によると,以下のものが挙げられる.輸出国側に対する環境負荷としては,輸入国が本来自国で消費すべき水資源を奪っているという仮想水(バーチャル・ウオーター),同じく,それを持続的な食料消費を行う場である資源としての土地の面積の収奪に置き換えたエコロジカル・フットプリントの概念が挙げられる. また,輸入国側に対する環境負荷としては,輸入作物を窒素で置き換え,これが蓄積した土地で育った作物が人体に悪影響を及ぼすという窒素の供給過多の問題が挙げられる.
著者
髙橋 昂也 前田 幸嗣 前田 幸嗣
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.39-49, 2015-09

The purpose of this paper is to econometrically clarify the current demand for beef in Japan by classifying beef into four classes and to suggest implications for the impact of beef tariff reduction. In the analysis, an appropriate model is selected and the existence or non-existence of habit formation and its type are clarified. The main analysis results are as follows. First, rational habit formation exists in the demand for beef. Second, each class is a substitute for classes adjacent in quality and seldom a substitute for other classes. Third, if tariff is reduced, import quantity will increase in the short run. By contrast, domestic beef production will be affected in the long run and the sharpest decrease will be seen in daily beef production.
著者
髙橋 昂也 前田 幸嗣
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.27-38, 2015-02

日豪EPAが2014年4月に大筋合意に至り,豪州産牛肉については,セーフガードを設定した上で,冷凍牛肉の関税率は19.5%,冷蔵牛肉の関税率は23.5%まで,それぞれ段階的に引き下げられることが決定した。また,現在,わが国が参加している環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では,日米の協議において,牛肉の関税水準およびセーフガードが争点の1つとなっている。以上のようにわが国では現在,関税削減などによる国産牛肉生産への影響が懸念されているところである。そこで,本稿では,わが国における牛肉の貿易自由化に関する計量経済研究のサーベイを行い,牛肉の貿易自由化の影響を計量経済学的に分析する際の課題を明らかにする。
著者
中川 隆 甲斐 諭
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.235-246, 2002-02

我が国において未許可の遺伝子組換えとうもろこし「スターリンク」が検出されたGMO問題は、日米協議にまで発展し、輸出前検査を行うことで合意に達したものの、今なお、国ごとに異なる認可品種、分別、表示規制、検査・評価方法等、課題が山積しており、また平成13年4月より、表示制度が開始されたこともあって、今後その動向が注目される。こうした状況下、生協と農協・生産農家が連携を図り、搾乳牛に遺伝子組換え原料を一切給与せずに生産される「non-GMO牛乳」の供給がグリーンコープで行われている。non-GMO牛乳とは、搾乳期間中、飼料原料を完全に非遺伝子組換え作物に切り替えて生産された牛乳であり、現在、グリーンコープが最も力を入れている商品の1つである。飼料原料から遺伝子組換え作物を一切排除した画期的な牛乳で、平成10年5月より供給が開始された。ちなみに、グリーンコープで供給されている牛乳はすべてnon-GMO牛乳である。本稿では、non-GMO牛乳が生産されるに至った背景、生産状況、地域農業の振興に果たす効果、また当面している課題を、現地実態調査を踏まえて、生協と農協・生産農家の両面から分析し、この新たな試みによる牛乳の需要開発のための諸課題と問題点を明らかにする。
著者
中川 隆 甲斐 諭
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.235-246, 2002-02

我が国において未許可の遺伝子組換えとうもろこし「スターリンク」が検出されたGMO問題は、日米協議にまで発展し、輸出前検査を行うことで合意に達したものの、今なお、国ごとに異なる認可品種、分別、表示規制、検査・評価方法等、課題が山積しており、また平成13年4月より、表示制度が開始されたこともあって、今後その動向が注目される。こうした状況下、生協と農協・生産農家が連携を図り、搾乳牛に遺伝子組換え原料を一切給与せずに生産される「non-GMO牛乳」の供給がグリーンコープで行われている。non-GMO牛乳とは、搾乳期間中、飼料原料を完全に非遺伝子組換え作物に切り替えて生産された牛乳であり、現在、グリーンコープが最も力を入れている商品の1つである。飼料原料から遺伝子組換え作物を一切排除した画期的な牛乳で、平成10年5月より供給が開始された。ちなみに、グリーンコープで供給されている牛乳はすべてnon-GMO牛乳である。本稿では、non-GMO牛乳が生産されるに至った背景、生産状況、地域農業の振興に果たす効果、また当面している課題を、現地実態調査を踏まえて、生協と農協・生産農家の両面から分析し、この新たな試みによる牛乳の需要開発のための諸課題と問題点を明らかにする。
著者
藤原 諒也 大谷 智一 佐藤 剛史 矢部 光保
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.81-90, 2012-09-20 (Released:2012-10-02)

Can farmers sell agricultural products at the higher price by reduction of greenhouse gas (GHG)? Or can we find the decreasing marginal willingness to pay(MWTP)by the increasing reduction rate of GHG emission under the law of diminishing marginal utility? If so, what is the most beneficial way to deal with GHG emission for farmers? In order to answer these questions, we conducted an internet survey and got 2062 response. We used Ordered Probit Model to analyze consumer’s preference of rice produced by reduction of GHG emission and find the following results: the highest MWTP for reduction rate of GHG was 10.10 yen between 5 and 10 percent; 6.13 yen was between the 10 and 20 percent; 4.59 yen was between 20 and 50 percent; 0.89 yen was between 50 and 70 percent; MWTP, however, increased by up to 4.20 yen between 70 and 100 percent. Base on this result, we can say that consumers appreciate even a small reduction of GHG and then for farmers to start such activities from the small redaction is effective way when they sell environmental friendly agricultural products. Consumers also find another value for high reduction rate of GHG close to 100 percent. Additionally, other characteristics of consumers who appreciate reduction of GHG were young generation, high income, and more knowledge of farmer’s activities of GHG reduction. 温室効果ガス削減に関する農家の努力は, 農産物の付加価値として, より高い価格では販売することは可能であろうか. また, 温室効果ガスの削減率の増加につれて, 限界効用逓減の法則に従い, 追加1当たり支払意志額は低減であろうか. もし, そうであれば, 農家としてどの程度の削減努力を行うのが妥当であろうか. このような問いに答えるため, 20代以上の女性に対して, インターネットサーベイを行い, 2062名から回答を得た. そして, 米5キログラムを対象に, 温室効果ガス排出量削減に配慮した米への選好について, 順序プロビット・モデルを用いた分析を行い, 以下の結果を得た. 回答者は二酸化炭素の追加1%削減当たりの支払意思額は5% 〜 10%間が最も高く10.10円となり, 10% 〜 20%間が6.13円, 20% 〜 50%間が4.59円, 50%〜 70%間が0.89円と逓減した. 他方, 70% 〜 100%間では上昇し4.20円となった. この結果から, 削減が少量であったとしても消費者は削減を評価しており, 温暖化問題に配慮した農産物を販売する場合, まずは, 生産者は少量の削減に取り組むことが効率的だと考えられる. 他方, 100%に近い削減に対しては, 消費者は新たな価値を見いだしていることも明らかになった. また, 温室効果ガス排出量を削減した農産物を相対的に高く評価するのは, 若い世代や年収の高い消費者, 農家の取組に関する知識が多い消費者であった.
著者
黄 波 矢部 光保
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.23-30, 2010-02

A set of measures were taken at the source area of the sandstorm aimed to mitigate the threat of sandstorm in Beijing and the nearby region where China government launched the Sandstorm Source Control Project in and around Beijing and Tianjin. Chinese National Forestry Bureau gave the project a high evaluation. However, the project did not seem so successful with respect to the annual incidence of the sandstorms. This article is based on the data collected and monitored by State Forestry Bureau for the pivot projects and reaches the conclusion that the implementation of the sand source treatment of Beijing and Tianjin project has improved the ecological status of the sand source area and enhanced the local economic developments as well as improved the living standard of local residents.
著者
入路 光雄 白石 哲朗 入江 奨 新居 早也佳 北野 戴 山口 明彦 松山 倫也
出版者
九州大学大学院農学研究院
雑誌
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 (ISSN:13470159)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.115-123, 2008-10
被引用文献数
1

The aim of this study was to establish a suitable experimental system for inducing maturation and spawning of captive reared jack mackerel, Trachurus japonicus. Specifically, we examined annual changes in the gonadal histology of captive jack mackerel. A total of 285 adult fish (147 females and 138 males) were sampled regularly from rearing tanks (3 ton) in the months of May through July (2006). We found that the gonadosomatic index (GSI) values in both sexes increased during May and June. Spermiation was observed in 60 to 80% of males; however, the GSI values were lower for captive males than for wild males of the same stage. In females, vitellogenic ovaries were recorded in only four fish in the annual sampling period. All of the fish sampled were 2 to 4 years old, with fork lengths of at least 200mm. Condition factors (CF) were between 13 and 17. From the above results, we can conclude that in the present experimental set up female jack mackerel fail to proceed into vitellogenesis, even though they are of reproductive age and their size and body condition have developed to mature values. Further studies on the development of reliable techniques for inducing vitellogenesis based on endocrinological dysfunction mechanisms in the gonadal development of captive jack mackerel are necessary.マアジの繁殖情報の精度を向上させるための飼育実験系の確立を目的として,本研究では,飼育下におけるマアジの生殖年周期を調査した.2005年5月~2006年7月の1年3ヶ月にわたり,陸上屋外円形3トン水槽でマアジ親魚を飼育し,定期採集により285尾(雌147尾,雄138尾)を得た.雌雄のGSIは5-6月に上昇した.雄では60-80%の個体で排精が認められたが,GSIは天然魚と比較して著しく低かった.一方,雌では卵黄形成が認められた個体は,4尾のみであった.採取時のマアジ雌雄の年齢は2-4歳で,尾叉長も全て200mm以上あり,CFも13-17であった.以上の結果より,水槽内で周年にわたり飼育したマアジでは,年齢,体サイズ,栄養状態ともに成熟するための条件は整っていたにもかかわらず,卵黄形成は進行しなかった.今後,養成マアジの成熟・産卵誘導実験系を確立するためには,生殖腺の発育不順の内分泌的要因の解明も含め,飼育下で卵黄形成を確実に促進させる技術を開発することが必要となる.