著者
佐々木 衞
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.280-300, 1988

中国の民間宗教が多様な姿を持つことに, 研究者は多くの関心を払ってきた。本稿ではフリードマン等が提示した中国社会の統一性と多様性に関する命題から, その全体的な姿を理解する手掛を示した。中国の民間宗教には宗族の祖先祭祀や廟の祭祀の他に, 歴代の朝延から弾圧され続けた民間宗教集団のものがある。宗教集団を構成する絆は師弟が結ぶ個人的な関係より他はなく, 宗教集団は師弟の絆を越えた実在を持つことができなかった。この構造においては, 伝統的な宗教権威は継承され難く, 集団の統一は頭目のカリスマ的実力に頼らざるを得ない。中国の民間宗教集団の活動には, 「伝統型」「分派型」「自唱型」の3つの位相がある。教義・組織・活動の範例として大きな影響力を持ったのは, 「伝統型」の位相の集団である。しかしこの位相の集団も教首の法燈を守るのは容易でなく, 幾代もつづいて継承されたのはごく少数であった。その存在は神格化されて広く一般民衆の中に流布した。教派の具体的な姿は, 幾多の「分派型」がくり返し出現する中に新しく更新されていった。中国の民間宗教を全体的に理解するには, 宗族と村廟の祭祀に加えて, こうした宗教集団の活動をも重ね合わせて透視することが必要であろう。中国社会の構造原理を解明する上でも, 欠かすことのできない問題である。

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