著者
尾崎 均 三宅 達郎
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.475-497, 1994
被引用文献数
4

ハイドロキシアパタイト (以下 HAp と略す.), タンパク質被覆 HAp および口腔内細菌の各表面間に働く相互作用ポテンシャルエネルギー (Vel+V_A) を電気二重層相互作用ポテンシャルエネルギー (Vel) およびファンデルワールス相互作用ポテンシャルエネルギー (V_A) から理論計算し, HAp への細菌の付着現象に及ぼす遠距離で働く力の効果を検討した.<br> 同種粒子の場合, HAp 間では極大反発力 (Vmax) が大きく, 凝集しにくいのに対し, ゼータ電位が負に小さい細菌 (<i>Streptococcus mutans</i> (以下 <i>S. mutans</i> と略す.) OMZ175, <i>S. mutans</i> K-1 および <i>Streptoccus sobrinus</i> (以下 <i>S. sobrinus</i> と略す.) 6715) 間では Vmax が小さく, 凝集しやすいことがわかった.<br> 異種粒子である HAp と口腔内細菌との間においては, 負で小さいゼータ電位をもつ菌の Vmax は, 負で大きいゼータ電位をもつ菌に比べて小さい. すなわち, ゼータ電位の大きさから, HAp 表面に付着しやすい菌と付着しにくい菌とに大別できることが判明した. また, 同様に異種粒子であるタンパク質被覆 HAp と口腔内細菌との間においては, タンパク質の Hamaker 定数が水よりも小さいため, ファンデルワールス力はつねに反発力となった. とくに, HAp の負の電位を高くするタンパク質が HAp に吸着すると, 静電気的にも反発力が生じ, 細菌の付着はきわめて起こりにくくなる. この傾向は負で大きいゼータ電位をもつ細菌において顕著であった. これに対して, HAp の正のゼータ電位を高くするタンパク質が HAp に吸着すると, 細菌の種類を問わず, 静電気的引力がファンデルワールス力の反発力を大きく上回り, きわめて付着しやすい状態になった. また, 溶液 pH が低くなるほど, 細菌の付着は容易になる傾向を示した.<br> 以上の結果から, HAp 表面に Hamaker 定数が小さく, HAp の負の電位を大きくする物質を吸着させ, 溶液の pH を高くすることができれば, HAp と細菌との間に大きなポテンシャルエネルギーの障壁が生じ, それによって, 細菌とくに負の電位の大きい細菌の付着を遠距離力で阻害できることが示唆された.

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