著者
金山 愛加 笹部 倫世 山本 眸 片岡 宏介 吉松 英樹 小柳 圭代 南部 隆之 沖永 敏則 小野 圭昭 河村 佳穂里 土居 貴士 三宅 達郎
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.72-80, 2019-09-25 (Released:2019-12-25)
参考文献数
28

ニームはインド原産センダン科の常緑樹で,古来よりその枝は歯ブラシとして,またその葉は駆虫剤(虫下し),整腸剤,胃薬といったオーラルメディケーションとして,そして種子からの抽出液は植物の除虫剤として用いられてきた. 本研究では,根面う蝕から高頻度に検出されるLactobacillus casei(Lc),口臭との関連が深いとされているFusobacterium nucleatum(Fn),さらに口腔カンジダ症の起因菌であるCandida albicans(Ca)に対するニーム抽出液の抗菌効果について検討することを目的とした. ニーム抽出液は種子の搾汁液を使用した.まず,各菌を播種した寒天培地にニーム抽出液(x1)20μLを含むディスクを静置し,24時間培養後,それぞれの発育阻止円を測定するペーパーディスク法を行った.さらに各菌液をニーム抽出液の段階希釈液と30分間および24時間共培養を行ない,その途中経過の培養液100μLを寒天培地に播種しコロニー数を計測するtime‐killing kinetics assayを行った. ペーパーディスク法における発育阻止円の直径平均値は,Lcが15.5mm, Fnが12.2mm, Caが15.8mmであった.time‐killing kinetics assayについては,30分間共培養ではLcが103倍希釈(x1/103),CaおよびFnは102倍希釈(x1/102)までの希釈液に菌増殖抑制効果が認められた.また,24時間共培養では,Lcでは103倍希釈(x1/103),Caについては102倍希釈(x1/102)までのニーム希釈液に菌増殖抑制が認められたが,Fnでは102倍希釈(x1/102)までのニーム希釈液については培養12時間までは菌の増殖抑制が認められたものの培養12時間以後は菌増殖の抑制が認められなかった.すなわち,Fnについては,24時間までの共培養では,全ての供試されたニーム希釈液では抗菌効果は認められなかった.以上のことから,ニーム抽出液はLcおよびCaに対し明らかな抗菌効果を有することが示された.このことは,ニーム抽出液がヒト口腔内微生物に対し抗菌・抗真菌効果を有した植物由来の基剤となるものであり,根面う蝕や口腔カンジダ症の予防・治療ツールに応用できる可能性を示唆するものである.
著者
玉木 直文 松尾 亮 水野 昭彦 正木 文浩 中川 徹 鈴木 雅博 福井 誠 谷口 隆司 三宅 達郎 伊藤 博夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.316-321, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
19

糖尿病や腎機能と歯周病との関連についての研究は数多く行われてきたが,これらの疾患のバイオマーカーと歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーとの関連についての研究は少ない.本研究では,歯肉溝液中の炎症関連バイオマーカーと糖尿病・腎機能マーカーとの関連性について検討を行うことを目的とした. 市民健診参加者と糖尿病治療の患者を対象とした.対象者の歯肉溝液を採取し,アンチトリプシンとラクトフェリン濃度を測定した.また,糖尿病コントロール指標として糖化ヘモグロビン(HbA1c),腎機能マーカーとしてクレアチニンと推算糸給体濾過量(eGFR)を測定し,これらを従属変数とした重回帰分析を用いて,それぞれの関連性を検討した. その結果,炎症関連歯肉溝バイオマーカーと血清のすべての検査項目において,年齢・性別調整後の平均値は市民健診受診者と糖尿病患者の間で統計学的な有意差があった(p<0.001).また,糖尿病などに強く関連する交絡因子である年齢や性別などの調整後でも,歯肉溝中の炎症関連バイオマーカーは糖尿病・腎機能マーカーとも関連することが認められた.本研究の結果から,客観的に評価された歯肉溝バイオマーカーと糖尿病や腎機能マーカーとの間には有意な関連があることが示され,医科−歯科連携における健診ツールとして,歯肉溝液中のバイオマーカーの測定の有用性が示唆された.
著者
片岡 宏介 吉松 英樹 栁沢 志津子 三宅 達郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.13-20, 2023 (Released:2023-02-15)
参考文献数
23

ヒト成人の皮膚総面積の200倍以上を占める粘膜の表層では,常に細菌やウイルスといったさまざまな病原体が体内への侵入を試みている.それに贖う手段として,非特異的防御バリア(自然免疫機構)と特異的防御バリア(獲得免疫機構)が粘膜部では作働している.粘膜ワクチンは,病原体の侵入門戸である粘膜面に病原体由来の抗原と免疫賦活化剤(アジュバント)を直接投与することにより,自然免疫機構を効率良く誘導し,異的防御バリアの主体となる抗原特異的分泌型IgA抗体を産生することを可能とする. われわれはこれまで,加齢の影響を受けにくい鼻咽腔関連リンパ組織(NALT)の樹状細胞をターゲットに,サイトカインFlt3 ligand発現DNAプラスミドとCpGオリゴデオキシヌクレオチドを併用した経鼻ダブルDNAアジュバント(dDA)システムの構築を行い,高齢者にも応用可能な粘膜ワクチンの開発を目指してきた. 本稿では,経鼻dDAシステムが抗老化作用を有すること,また感染症のみならずNCDs発症を防ぐ経鼻ワクチンへの応用の可能性について,われわれの最新の知見を紹介する.近い将来,本粘膜ワクチンが,感染症だけでなくNCDsをも制御することで,わが国の「健康寿命の延伸」と「健康格差の縮小」という国家課題の克服と,世界的に進行する超高齢社会における高齢者のQOL向上に寄与できるツールとなり,口腔保健医療サービスの充実に貢献できればと考える.
著者
尾崎 均 三宅 達郎
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.475-497, 1994
被引用文献数
4

ハイドロキシアパタイト (以下 HAp と略す.), タンパク質被覆 HAp および口腔内細菌の各表面間に働く相互作用ポテンシャルエネルギー (Vel+V_A) を電気二重層相互作用ポテンシャルエネルギー (Vel) およびファンデルワールス相互作用ポテンシャルエネルギー (V_A) から理論計算し, HAp への細菌の付着現象に及ぼす遠距離で働く力の効果を検討した.<br> 同種粒子の場合, HAp 間では極大反発力 (Vmax) が大きく, 凝集しにくいのに対し, ゼータ電位が負に小さい細菌 (<i>Streptococcus mutans</i> (以下 <i>S. mutans</i> と略す.) OMZ175, <i>S. mutans</i> K-1 および <i>Streptoccus sobrinus</i> (以下 <i>S. sobrinus</i> と略す.) 6715) 間では Vmax が小さく, 凝集しやすいことがわかった.<br> 異種粒子である HAp と口腔内細菌との間においては, 負で小さいゼータ電位をもつ菌の Vmax は, 負で大きいゼータ電位をもつ菌に比べて小さい. すなわち, ゼータ電位の大きさから, HAp 表面に付着しやすい菌と付着しにくい菌とに大別できることが判明した. また, 同様に異種粒子であるタンパク質被覆 HAp と口腔内細菌との間においては, タンパク質の Hamaker 定数が水よりも小さいため, ファンデルワールス力はつねに反発力となった. とくに, HAp の負の電位を高くするタンパク質が HAp に吸着すると, 静電気的にも反発力が生じ, 細菌の付着はきわめて起こりにくくなる. この傾向は負で大きいゼータ電位をもつ細菌において顕著であった. これに対して, HAp の正のゼータ電位を高くするタンパク質が HAp に吸着すると, 細菌の種類を問わず, 静電気的引力がファンデルワールス力の反発力を大きく上回り, きわめて付着しやすい状態になった. また, 溶液 pH が低くなるほど, 細菌の付着は容易になる傾向を示した.<br> 以上の結果から, HAp 表面に Hamaker 定数が小さく, HAp の負の電位を大きくする物質を吸着させ, 溶液の pH を高くすることができれば, HAp と細菌との間に大きなポテンシャルエネルギーの障壁が生じ, それによって, 細菌とくに負の電位の大きい細菌の付着を遠距離力で阻害できることが示唆された.