- 著者
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金 漢龍
堀江 武
中川 博視
和田 晋征
- 出版者
- 日本作物学会
- 雑誌
- 日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
- 巻号頁・発行日
- vol.65, no.4, pp.644-651, 1996-12-05
- 被引用文献数
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温度傾斜型CO_2濃度制御チャンバー(TGC)を用い, 2段階のCO_2濃度(≅350μLL^<-1>, 690μLL^<-1>)と4段階の温度条件とを組み合わせて生育させた水稲(アキヒカリ)個体群の収量およびその構成要素器官の生長反応を1991年と1992年の2作期について検討した. 実験に供した温度範囲は, 全生育期間の平均気温として1991年は27.2〜31.1℃, 1992年は26.0〜29.3℃であった. 約2倍増のCO_2濃度(690μLL^<-1>)処理による水稲の最大増収率は最も低温, すなわち現行の外気温もしくはそれに近い温度条件下で得られ, 1991年と1992年にそれぞれ40%と22%であった. この収量増加は, 主としてCO_2濃度倍増処理による単位面積当たりの穎花数の増加に帰せられ, 登熟歩合や粒重に対するCO_2濃度の効果は相対的に小さかった. CO_2濃度倍増処理による穎花数の増加率, ひいては増収率の年次間差異は, N施肥量の年次間の違い(1991年: 24 gN m^<-2>, 1992年: 12 gN m^<-2>)を反映した結果と考えられる. 一方, 現行の気温より高温条件下における収量は, CO_2濃度にかかわらず, 気温上昇に伴って急激に低下した. 気温上昇にともなう減収程度はCO_2濃度倍増区で大きい傾向にあり, 高温条件下では収量に対するCO_2濃度の効果がみられなくなった. 高温条件下での収量低下の原因はまず高温による不稔穎花の増加に求められ, 次に不完全登熟籾の増加にあった. 不稔穎花の発生は開花期の日最高気温の平均値と最も密接に関係していることが認められた.