著者
本間 香貴 中川 博視 堀江 武 大西 宏明 金 漢龍 大西 政夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.137-145, 1999-03-05
参考文献数
27
被引用文献数
4

地球環境変化に対する作物応答を明らかにするために, 高温・高CO_2濃度環境がイネ群落の蒸散とガス拡散抵抗に与える影響を調査した. CO_2濃度をそれぞれ365と700μL L^<-1>に設定した2棟の温度傾斜型CO_2濃度制御チャンバー(TGC)の各々に3温度区(実験期間内平均気温29.8, 30.4, 32.5℃)を設け, 水稲品種アキヒカリとIR36を栽培し, 実験に供試した. 各温度・CO_2濃度処理区で8月2日(幼穂形成期)から8月22日(出穂期)まで, 乾湿球温度, 群落表面温度(T_c)と純放射量を測定し, また, ミクロライシメータ法を利用して蒸発散量(E)も測定した. Eの測定値と微気象データをもとに得られた水蒸気と熱輸送に対する空気力学的拡散抵抗(r_a)は, 全処理区, 全計測期間を通じてほぼ一定値の11.7sm^<-1>で推移した. このr_a値とT_cおよび微気象データを熱収支式に代入し, Eおよび群落拡散抵抗(r_c)を求めたところ, Eの推定値とライシメータ法による実測値は, 両品種とも非常によく一致した. 両品種のr_cは全ての温度・CO_2濃度処理区において, 全天日射量が500W m^<-2>以上で最小値(r_<c,min>)に達した. 最も低い温度区では, 高CO_2濃度によって, 自然CO_2濃度環境下よりもr_<c,min>が40〜49%, T_cが1.4〜1.6℃増加し, Eが14〜16%減少した. しかし, この高CO_2濃度の影響は生育温度の上昇につれて減少した. このようなr_<c,min>の温度とCO_2濃度に対する反応は, イネのこれらの環境に対する長期の適応現象によるものと思われた。以上より, 地球の温暖化は, CO_2濃度の上昇によるイネの水利用効率の向上効果を減少させることが示唆された.
著者
金 漢龍 堀江 武 中川 博視 和田 晋征
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.644-651, 1996-12-05
被引用文献数
17

温度傾斜型CO_2濃度制御チャンバー(TGC)を用い, 2段階のCO_2濃度(&cong;350μLL^<-1>, 690μLL^<-1>)と4段階の温度条件とを組み合わせて生育させた水稲(アキヒカリ)個体群の収量およびその構成要素器官の生長反応を1991年と1992年の2作期について検討した. 実験に供した温度範囲は, 全生育期間の平均気温として1991年は27.2〜31.1℃, 1992年は26.0〜29.3℃であった. 約2倍増のCO_2濃度(690μLL^<-1>)処理による水稲の最大増収率は最も低温, すなわち現行の外気温もしくはそれに近い温度条件下で得られ, 1991年と1992年にそれぞれ40%と22%であった. この収量増加は, 主としてCO_2濃度倍増処理による単位面積当たりの穎花数の増加に帰せられ, 登熟歩合や粒重に対するCO_2濃度の効果は相対的に小さかった. CO_2濃度倍増処理による穎花数の増加率, ひいては増収率の年次間差異は, N施肥量の年次間の違い(1991年: 24 gN m^<-2>, 1992年: 12 gN m^<-2>)を反映した結果と考えられる. 一方, 現行の気温より高温条件下における収量は, CO_2濃度にかかわらず, 気温上昇に伴って急激に低下した. 気温上昇にともなう減収程度はCO_2濃度倍増区で大きい傾向にあり, 高温条件下では収量に対するCO_2濃度の効果がみられなくなった. 高温条件下での収量低下の原因はまず高温による不稔穎花の増加に求められ, 次に不完全登熟籾の増加にあった. 不稔穎花の発生は開花期の日最高気温の平均値と最も密接に関係していることが認められた.