- 著者
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Kang Sung-Dae
木村 富士男
- 出版者
- 公益社団法人 日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.75, no.5, pp.955-968, 1997-10-25
- 参考文献数
- 25
- 被引用文献数
-
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寒気が暖かい海面に移流してくるときには、しばしば筋状雲が観測される。これらの中で、海岸近くにある山の風下において特に太く長い筋状雲が見られることがある。一般の細い筋状雲の生成にはシアーと成層不安定が重要とされている。しかし、山岳風下の太い筋状雲の生成には成層不安定の他に重要なメカニズムが存在すると考えられる。上記の筋状雲の生成に係わっているであろう2つの要素、成層不安定と地形による力学的擾乱、を高分解能に設定したコロラド州立大学のメソモデルであるRAMS(Regional Atmospheric Modelling System)を使って調べた。数値実験では、基本場として一様な大気安定度と風速の低Froude数の流れを考え、これを風上境界に与えた。上記2つの効果を見るため数値実験は、主として海上の不安定成層の強さを決めている海面温度と、陸上の山岳の有無を変えて数値実験を行った。その結果、海面からの顕熱輸送が大きく、山岳を仮定したときには、モデルによって安定した形状の筋状雲が再現された。筋状雲は高度約1kmで一対の対流性ロールの間に形成される。以下の5つの性質が明らかになった。1)安定した形状の筋状雲が形成されるためには不安定層と地形性の力学擾乱の両方が必要である。2)海面からの顕熱が対流性ロールと筋状雲を維持する主な原因であり、雲の中の凝結による潜熱の解放による効果は無視できる。3)一対の対流性ロールはそれぞれ2つのサブ・ロールの複合体である。サブ・ロールの一つは、大きな半径をもつ弱いロール、もう一つは小さな半径の強いロールである。前者(外部サブ・ロール)は水蒸気を広い範囲から集め、後者(内部サブ・ロール)はロール対の間にある強い上昇流によって水蒸気を上層へ輸送する役割を担っている。内部サブ・ロールの存在が筋状雲の形状を細い状態に保っている。5)静力学平衡の仮定を置いても置かなくても筋状雲の再現は可能である。これは大気の鉛直方向の慣性が本質的には重要な役割をしていないことを意味し、また必ずしも地形の水平規模の大きさによって、筋状雲の生成が制約されるものではないことも示唆している。