著者
近藤 裕昭 有沢 雄三 鵜野 伊津志 尾形 和彦 木村 富士男 斉藤 朝夫 鈴木 基雄 高橋 俊二 中西 幹郎 中埜 幸宏 水野 建樹 安楽岡 顕 吉門 洋 劉 発華 若松 伸司
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.751-760, 1994-11-30
参考文献数
18
被引用文献数
9

気象研究所,東北大学,国立環境研究所,資源環境技術総合研究所でそれぞれ運用されている局地循環モデルの相互比較実験を,昼間の二次元の海風を対象として行った.地表面の熱的な境界条件を地表面温度で与え,午前6時をスタートとする正弦関数とした.各モデルの固有の接地境界層のモデル化から顕熱輸送量を決定するCASE1と,顕熱輸送量をC_hUΔθで統一的に与えるCASE2の二種類の計算を行ったところ,海風の発達についてCASE1では一致した結果にはならなかったのに対し,CASE2では海風循環の大きさと強さ,地上風速,海風発達後の海風前線の位置について一致した結果が得られた.これより,昼間の海風の発達には地表面からの顕熱輸送量が重要で,これが適切に与えられれば計算された海風の主要な特徴については各モデルで一致することがわかった.
著者
川瀬 宏明 木村 富士男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.147-159, 2005-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

冬季北西風の吹出し時に,日本の周辺海域には筋状雲が現われる.その中でも,日本の南海上ではしばしば太い筋状雲が発生する.本研究では,冬季3カ月(1, 2, 12月)のGMS (Geostationary Meteorological Satellite)可視画像を分析し,850hPaの風と対応させることで,このような筋状雲が下層風によって受ける影響を調べた.その結果,筋状雲の出現は風向だけでなく風速によっても変化することがわかった.筋状雲には風速の増加に伴い発生頻度が増加するものと,逆に発生頻度が減少するものが存在する.九州の東海上,四国の南海上に現れる筋状雲は前者にあたり,紀伊山地の風下,紀伊水道で発生している筋状雲が後者にあたる.また,風速の変化によって出現する位置が変化する筋状雲も存在する.四国山地の南東風下にできる筋状雲がこれにあたり, 850hPaの風速が増加するほど発生位置が北東に移動する.
著者
川口 純 日下 博幸 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.375-383, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

ヤマセは,夏季の北日本の太平洋側に吹き付ける冷たく湿った東寄りの風である.ヤマセ卓越時には,東北地方太平洋側で東~南東の風が吹く.しかしながら,北上盆地では南風が吹く.本研究では,この南風の成因を明らかにするために,データ解析と領域気象モデルWRFを用いた数値実験を行った.結果を以下に示す.(1)WRFを用いた数値実験の結果,実地形を用いた基準実験と,北上高地の地形高度を90%に減少させた実験では北上盆地で南風が吹くが,北上高地の地形高度を80%,70%に減少させた実験では,北上盆地では南風が吹かずに東風が卓越する.(2)この結果は,フルード数やロスビー数を使った力学的解析の結果と一致する.(3)ヤマセ卓越時の北上盆地の南風は,地形障壁の効果と重力流の特徴をよく表している.
著者
木村 富士男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.313-320, 1994-06-30
被引用文献数
22

中部地方にあるアメダス局の中から,(1)水平規模の大きな盆地や谷,(2)水平規模の小さい谷,(3)山岳地,の3つのカテゴリーに分類される局を数局ずつ選び,夏期の雲の少ない日における日照率の平均的な日変化を調べた.その結果規模の大きな盆地や谷では,地面の起伏の影響が少ないと思われる地点より午後2時頃までは日照率が高く,その後も日照率が低くならないことが示された.これに対し規模の小さな谷では起伏影響の少ない地点より午前中はやや日照率が高く,午後は逆に低いこと,さらに山岳地では朝のうちを除いて常に日照率が低いことが示された.複雑地形上の局地循環モデルを使った今までの研究により,カラム積算水蒸気量の日変化と地形の水平規模の関係が示されているが,この解析結果はこれと定性的に一致する.また日中の局地循環による谷の中央部における下降流の強さは水平規模の小さな谷ほど強いはずであり,ここで示された日照率の地形規模依存性とは逆になる.
著者
齋藤 智興 木村 富士男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.7, pp.541-549, 1998-07-31
参考文献数
15
被引用文献数
22

関東中部域における夏期の対流性降水の日変化を, 東京レーダーの7.5分間隔データとアメダスデータを用いて調べた.解析は, 1994年と95年の7, 8月の中から総観規模擾乱による降水がなかった88日間を対象とした.この両年は暑夏年で, 対流性による降水が頻発した.解析方法は, 時別降水頻度分布をレーダーデータで作成し, 時刻および地域による頻度降水分布の相違を追跡した.また風分布との関連も考察した.その結果, 山岳域では午後に降水頻度が高まる時間が平地よりも早く, 特に日光周辺・奥秩父周辺の2地域で顕著であること, また19時頃に関東平野北西部の山麓で急激に降水頻度が高まることを見い出した.また, 沿岸・海上では午前中に降水のピークを持ち, 陸上では午後に持つことは以前から知られていたが, これをレーダーデータを用いて明らかにすることができた.さらに, 関東平野内でも降水頻度大が現われやすい所があることがわかった.
著者
木村 富士男
出版者
社団法人 日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.857-870, 1986
被引用文献数
4

風の弱く良く晴れた夜に関東平野に低気圧性のうずがしばしば現われることはHarada (1981a) により報告されている。静力学平衡を仮定した Boussinesg 方程式から成る局地風モデルにより, このうずを再現し, Haradaにより指摘されている性質とよく一致することを示す。次に地形を単純化し, クレータのあるガウス型の山を仮定した数値実験により, うずの形成メカニズムを調べる。この結果,次のことが明らかとなった。(1)まず日中に山の上に発達する熱的低気圧に正のうず度が蓄積する。この熱的低気圧は後のうずの生成に重要な役割を持っている。(2)夜になると, 山の斜面に下降流が発達する。山の中央部は発散場になり, うず度は低下する。この結果, 山麓でうず度が最大となる。(3)もし, 山麓にクレータなどがあると, さらにうず度の集中がおこり, 1個の独立したうずが形成される。夜に,クレータなど小規模の地形によりうず度の集中がおこるメカニズムは完全には明確にできたとは言えないが,うず度方程式の各項を見積ると, クレータ状地形の周囲から吹き降す山風の収束によるうず度の増強が最も効いている。山麓付近での高うず度帯の力学不安定については, それだけではうず度の集中をおこさせることはできない。最後に, 北海道においてシミュレーションを実施し, 同様なうずが, 北海道周辺の海上に3個できることを示す。そのうちの一つ, 十勝沖にできるうずは, その陸上側の半分がアメダスによる観測データより, しばしば見い出せる。
著者
中村 和正 若松 伸司 菅田 誠治 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.175, 2003

近年、光化学大気汚染の広域化が進行している。主要発生源から遠く離れた郊外地域に当たる福島県でもOx濃度の増加が90年代に入ってから著しく(図1)、2000年には22年ぶりとなる光化学スモッグ注意報が3回発令され、被害者数も104名に及んだ。本研究は関東地方及び福島県、山梨県におけるOxの空間的・時間的変動を明らかにすることを目的としている。解析方法は解析期間は1982_から_2001年で、福島県・茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・山梨県の大気環境常時監視測定局の時間値測定データ及びアメダス時間値観測データを用いた。解析結果。解析領域内におけるOx日最高値の上位5地点がすべて120ppbを超えた高濃度日に関東地方及び福島・山梨県内のどこでOx日最高値上位5地点が出現したのか、その頻度の経年解析を行ったところ、光化学大気汚染の広域化がさらに進行していることが分かった。特に90年代に入ってから、北関東でOx日最高値上位5位の出現頻度が増している。(図2)この要因の1つとして近年のNMHC/NOx比の低下が考えられる。NMHC/NOx比の低下は光化学反応を遅らせ、関東地方では夏季には海風の侵入に伴い、高濃度出現地域が内陸に移動することが多いため、最高濃度出現時刻が遅れることはより内陸に高濃度域が移ることを意味しており(Wakamatsu et al,1999)、高濃度日の日最高値上位5位の出現時刻も経年的に遅くなってきていることも確かめられた。(図3)また2000年には福島県でも日最高値上位5位が出現するようになった。
著者
山田 功 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.151, 2003

<U>はじめに</U><BR>雲の存在は日射の遮蔽や放射を通して大気に影響を与えるため、雲量に関する研究は気象学、気候学にとって非常に重要である。水平スケールの小さな雲であっても大気放射への影響は大きい.しかし,陸上に出現する小さな雲は,大規模な雲に比べ衛星による観測が難しく十分な解析が行われていない。また下層にできる積雲は、地形の影響を強く受けると考えられるが、空間分解能の制限から数値モデルでの取り扱いも難しい.このため観測データを用いて小さな雲の雲量について明らかにすることが重要である。<BR>これまで、晴天日の山岳域を対象とした日照率(一時間のうち日照があった時間の割合)の研究がなされており、日照率は山では午後に急激に低下すること、盆地では一日を通して高いことが指摘されている(木村、1994)。しかしながら平地を対象とした日照率の研究は行われていない。そこで本研究では夏季晴天日の関東平野における日照率について明らかにすることを目的とする。<BR><U>解析方法</U><BR>データはアメダス日照時間の一時間値を用いた。解析に用いた晴天日は、対象領域内のアメダス観測点における一日の日照時間の平均が6時間を超える日とした。また観測点を地形によって沿岸、内陸(平地)、山、及び盆地の4種類に分類し、日照率を比較した。さらにゾンデ観測のデータから相対湿度の鉛直プロファイルと日照率との関係について考察した。<BR><U>結果</U><BR>各観測点における晴天日の平均的な日照率を地形別に平均した(図1)。以前から指摘されていたような山岳域における地形依存性に加え、平坦な地形であっても日照率に有意な差のあることが明らかになった。平坦な地形である沿岸(COAST)と内陸(INLAND)の日照率を比較すると沿岸のほうが一日を通して高い。特に銚子のような岬で高い傾向にあった。<BR> ゾンデ観測データにより輪島と館野の相対湿度について比較したところ、より内陸に位置する館野では下層で相対湿度のピークを持つことが多かった。このことから日照率の差と混合層の発達との関係が推測される。<BR>しかし、沿岸と内陸の日照率の差は山と盆地の日照率の差より小さい。また夕方以降は山沿いで日照率の低下が強く見られた。<BR><U>参考文献</U><BR>木村富士男 1994. 局地風による水蒸気の水平輸送-晴天日における日照時間の地形依存性-. 天気 41:313-320.
著者
Kang Sung-Dae 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.955-968, 1997-10-25
参考文献数
25
被引用文献数
3 11

寒気が暖かい海面に移流してくるときには、しばしば筋状雲が観測される。これらの中で、海岸近くにある山の風下において特に太く長い筋状雲が見られることがある。一般の細い筋状雲の生成にはシアーと成層不安定が重要とされている。しかし、山岳風下の太い筋状雲の生成には成層不安定の他に重要なメカニズムが存在すると考えられる。上記の筋状雲の生成に係わっているであろう2つの要素、成層不安定と地形による力学的擾乱、を高分解能に設定したコロラド州立大学のメソモデルであるRAMS(Regional Atmospheric Modelling System)を使って調べた。数値実験では、基本場として一様な大気安定度と風速の低Froude数の流れを考え、これを風上境界に与えた。上記2つの効果を見るため数値実験は、主として海上の不安定成層の強さを決めている海面温度と、陸上の山岳の有無を変えて数値実験を行った。その結果、海面からの顕熱輸送が大きく、山岳を仮定したときには、モデルによって安定した形状の筋状雲が再現された。筋状雲は高度約1kmで一対の対流性ロールの間に形成される。以下の5つの性質が明らかになった。1)安定した形状の筋状雲が形成されるためには不安定層と地形性の力学擾乱の両方が必要である。2)海面からの顕熱が対流性ロールと筋状雲を維持する主な原因であり、雲の中の凝結による潜熱の解放による効果は無視できる。3)一対の対流性ロールはそれぞれ2つのサブ・ロールの複合体である。サブ・ロールの一つは、大きな半径をもつ弱いロール、もう一つは小さな半径の強いロールである。前者(外部サブ・ロール)は水蒸気を広い範囲から集め、後者(内部サブ・ロール)はロール対の間にある強い上昇流によって水蒸気を上層へ輸送する役割を担っている。内部サブ・ロールの存在が筋状雲の形状を細い状態に保っている。5)静力学平衡の仮定を置いても置かなくても筋状雲の再現は可能である。これは大気の鉛直方向の慣性が本質的には重要な役割をしていないことを意味し、また必ずしも地形の水平規模の大きさによって、筋状雲の生成が制約されるものではないことも示唆している。
著者
若月 泰孝 原 政之 藤田 実季子 馬燮銚 井上 忠雄 木村 富士男 小池 俊雄
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.I_55-I_60, 2016 (Released:2017-01-31)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

The incremental dynamical downscaling and analysis system (InDDAS) which has been developed from the pseudo-global-warming method by appending partial functions was applied for a probabilistic regional scale climate change projection with the target regions of Kanto and Japan Alps. In InDDAS, the most reliable future state was projected by a regional climate model (RCM) simulation with an ensemble mean among the climatological increments of multiple general circulation model (GCM) simulations. In addition, the uncertainty of the future projections is estimated by RCM simulations with the multi-modal statistical increments calculated by the singular vector decomposition of the multiple GCMs. An increase of rainfall with the change ratio of 7-16 % was projected in Kanto region, where the most reliable value was 10 %. The change ratios of the vicinity quantiles of extreme rainfall was projected to be larger than that of rainfall and was almost the same as the value explained by the Clausius—Clapeyron effect.
著者
佐々木 太一 木村 富士男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.65-74, 2001-02-28
被引用文献数
18

1996, 97年の夏期の静穏日7日間について, 関東平野及び周囲の山岳域における可降水量の日変動を調べた.国土地理院により全国約1000地点において観測され, 3時間間隔で算出されているGPS大気遅延量から可降水量を求め, 他の気象データとともに解析した.日中には, 大規模な谷風及び太平洋あるいは日本海側からの海風と思われる地上風の収束が関東北部や西部の山岳域に見られる.この領域では可降水量が午後に大きく増加し18時頃に最大となる.一方, 関東平野の内陸部ではそれより遅れて24時頃に最大となる.可降水量の増大に対応して降水頻度が増加する傾向が見られる.これとは対照的に, 関東平野の沿岸部における可降水量の日変動の振幅は小さく, 特に海風の吹き込む時間帯にはほとんど増加していない.大島や石廊崎における可降水量や地上比湿が海上の水蒸気量を代表すると想定し本土と比較した結果, 海上は陸上に比べ大気下層は湿潤であるものの可降水量は小さいことがわかる.沿岸部において日中に可降水量が増加しない理由は, 海上大気の可降水量が小さいことと, この領域が局地循環による発散域に位置するためであると推測される.
著者
里村 雄彦 木村 富士男 佐々木 秀孝 吉川 友章 村治 能孝
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.51-63, 1994 (Released:2006-10-20)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

チェルノブイリ原子力発電所事故の際に放出された放射性汚染物質の、ヨーロッパにおける空気中濃度と沈着量について、気象研究所の長距離輸送モデルを用いて計算した。このモデルは、気象庁の旧ルーチンモデルで気象要素の予報を行い、ラグランジュ移流拡散モデルで汚染物質の濃度を計算する。発電所からの汚染物質の放出量として、ATMESプロジェクトで配布された発生源データを用いた。 計算の結果、モデルのCs-137とI-131の空気中濃度は観測とよく合うことが示された。しかし、沈着量は観測と合わないこともわかった。気象予測モデルの降水予報の精度の悪さと、観測値とモデルとがそれぞれ代表するスケールの違いが、沈着量の差の原因と考えられる。
著者
木村 富士男 谷川 亮一 吉崎 正憲
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.799-807, 1997-11-30
参考文献数
6
被引用文献数
16

晴天静穏時の大気下層における水蒸気輸送と, それによる可降水量の日変化を調べるため, 1995年7月24日から29日までの6日間, 関東地方の3地点(丸沼, 前橋, つくば)において, オメガゾンデなどによる集中観測を行った. 過去の研究で, アメダスやレーダーの解析などにより, 夏期の北関東山地や中部山岳域では降水頻度が高いことが示されている. また理論的にも静穏日には山岳域に水蒸気が集まりやすいことが予想されているが, これらを確認するための, 晴天静穏日の山岳域における水蒸気量の観測は例が少なかった. 今回の観測の結果, 山岳域と平野域とで水蒸気量の日変化に顕著な違いがみられた. 山岳域の丸沼では, 局地循環によると思われる水蒸気の日変化が高度4500mまで及び, 午前中から夕方にかけて可降水量が増加した. 一方で, 山岳域の麓の前橋では, 午前中に可降水量の急減がみられ, その後次第に回復した. これらの結果から, 水平規模の大きな局地循環による水蒸気輸送と, 可降水量の日変化との間に密接な関係があることが明らかになった. さらに, 夏期の局所的な降水頻度の地域分布との関係についても示唆に富む結果が得られた.
著者
伍 培明 川村 宏 木村 富士男
出版者
社団法人 日本リモートセンシング学会
雑誌
日本リモートセンシング学会誌 (ISSN:02897911)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.518-523, 1997-12-30 (Released:2009-05-29)
参考文献数
3

Winds are the critical factor in determining regional weather patterns and climate. In winter, the winds over the Sea of Japan have great effect on the weather of Japan islands. In this paper, wind distribution over the Sea of Japan is analyzed by using wind data observed by NASA Scatterometer (NSCAT) aboard Japan's Advanced Earth Observing Satellite (ADEOS, Midori).Synoptic views of the wind field over the Sea of Japan show remarkable evidence of a land topography effect causing a convergence of the surface wind field during cold-air outbreaks. The Changbai mountains in the North Korea locates at upstream of outbreak winds, and the wind field is deformed by them over the western part of the Sea of Japan. Strong north winds and northwesterly winds of about 15-20 m/s are observed off Vladivostok and off the Korea Peninsula, respectively, and they converge while blowing over the Sea of Japan. A wind shadow, where the wind speed is less than about 9 m/s, is seen in the downwind of the mountains, extending more than 200 km. Numerical experiments using a three-dimensional local circulation model were performed to investigate the formation mechanisms of the outbreak-wind deformation. The results show that the simulated winds agree well with the NSCAT observed winds.
著者
原 政之 日下 博幸 木村 富士男 若月 泰孝
出版者
日本流体力学会
雑誌
ながれ : 日本流体力学会誌 (ISSN:02863154)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.353-361, 2010-10-25
被引用文献数
1

過去100年間における全球平均の地上気温上昇は0.66℃である一方,東京の地上気温上昇は約3℃である.この違いの原因は,この間に顕著になった都市ヒートアイランドによる影響が大きい.都市ヒートアイランドによる地上気温の上昇は,冬季に最大となる.本研究では,都市キャノピーモデルを含む高解像度領域気候モデルWRFを用いて過去気候の再現実験を実施し,さらに擬似温暖化手法を用いて,SRES A2における2070年代を想定した将来気候実験を行った.これらから全球規模の気候変動が冬の東京都市圏における都市ヒートアイランド強度(Urban Heat Island Intensity;UHII)に与える影響を評価した.その結果,気候変動によって,夜間のUHIIは約20%以上強まることが示唆された.
著者
木村 富士男 甲斐 憲次
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

雷雨がどこでいつ発生するか正確に予報することは,数値予報をもってしても難しい.気象レーダは現状をとらえる有効な手段であるが,雨粒からのエコーをとらえているため,降水が発生してからでないと観測できない.雲や降水になる前の水蒸気の動態をとらえることが,雷雨をはじめとするメソ擾乱のメカニズム解明と予報のための重要な鍵の一つになっている.本報告では山岳や海陸のコントラストによる熱的局地循環による水蒸気輸送と降水頻度の関係を,野外観測,既存データの解析,数値モデルにより解明しようとしたものである.この研究がスタートした時期にGPSによる可降水量の観測が気象学的解析に耐えうる十分な精度を持っていることが明らかになり,本研究でもこれらのデータを積極的に活用した.この結果,関東地域における夏の一般場が弱く,総観規模の擾乱が弱いときの局所的な降水には以下の特徴があることが示された.1. 内陸では午後から夜に降水頻度が最大となるような日変化を持っている.2. 降水頻度の分布は地形とよい対応が見られる.3. 特に起伏との対応が良く,海陸のコントラストの影響を上回る.4. 山岳地では午後になると降水頻度が高まり,その後次第に平野部に降水頻度の大きな領域が広がる.これらの結果から,夏の関東周辺の山岳地に発生する対流性降水と局地循環による水蒸気輸送は極めて深い関係があることが明確となり,局地循環の活動とそれによる水蒸気輸送を的確に把握することが夏の雷雨を予報する上で重要であることが明らかになった.今後,陸上ではGPS,海上ではSSM/1による可降水量の常時監視ができるようになると,局地循環による水蒸気輸送ばかりでなく,降水に関する短時間予報の精度が大幅に向上する可能性がある.