- 著者
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藤部 文昭
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.2, pp.259-272, 1996-04-25
- 被引用文献数
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3
1994年の猛暑の特徴を, 境界層内の状況に焦点を当てて調べた. 境界層内の気温を表す指標として, 地上気温と850hPa気温との差(δT)および昼夜の気圧差(Δp)を使い, これらの経年変化と1994年の偏差を求めた. 解析は1961〜1994年7〜8月の晴天弱風日を対象にした. 1994年の夏はδTの正偏差とΔpの負偏差が明瞭に認められ, 境界層内には自由大気を上回る気温偏差があったことが見出された. また夏季晴天日の一般的特徴として, δTやΔpの偏差は降水・日照の履歴と相関があり, 少雨・多照が続いた後は境界層内は高温になる傾向が認められた. これは地表面の乾燥によって蒸発散が減り顕熱供給量が増すためであると考えられる. 従って, 1994年の夏は著しい少雨・多照の持続が境界層内の高温を増幅する1要因になったと推測される. 一方, δTの経年上昇傾向は夜間については多くの地点で認められるが, 昼間は関東内陸など一部の地点を除いて目立たない. むしろ沿岸ではδTの低下傾向があり, これは海面水温の低下に対応する. 従って, 1994年の猛暑のうち昼間の著しい高温については, 都市化の影響は一部の地域にとどまっていたと考えられる. なお他の研究結果から見て, 昼間の都市昇温は数十年以上の長いスケールにおいて初めて検出されるものと考えられる.