著者
藤部 文昭 松本 淳 鈴木 秀人
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.513-527, 2019 (Released:2019-09-30)
参考文献数
26
被引用文献数
1

1999~2016年の人口動態統計の個票データを使って,低温死亡率の空間・時間変動と気温との関係を統計的に調べた.空間分布においては,気温の低い都道府県ほど低温死亡率の高い傾向があり,冬季(12~3月)の平均気温1℃当たりの死亡率の変化は約12%である.年々変動においては,冬季(12~3月)の平均気温が1℃低い年は死亡率が20%程度高い.季節変化においては,12~3月の死亡数が年間の78%を占める.また日々変動においては,日平均気温1℃当たり死亡率は15%程度変動する.以上の事実は低温死亡率が気温の地域的・時間的な変動に影響されることを示しているが,熱中症に比べると気温変動に対する低温死亡率の変化率は小さい.また,冬の前半に比べて後半は低温死亡率が低いなど,低温馴化を示唆する事実がある一方で,低温馴化に否定的な事実もあり,馴化の影響は熱中症の場合ほどには明瞭でない.
著者
藤部 文昭
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.371-381, 2013-05-31
参考文献数
25

1909~2011年の人口動態統計資料を使って,暑熱による国内の年間死者数と夏季気温の変動を調べた.暑熱による死者数は,戦前から戦争直後まで年間200~300人程度で推移した後,1980年代にかけて減少したが,記録的猛暑になった1994年を契機にして急増し,戦前を上回る数になった.しかし,暑熱による死亡率は1994年以降も戦争前後も同程度であり,年齢層ごとに見ると戦前から現在まで一貫して高齢者の暑熱死亡率が高いことから,近年の暑熱死者数の増加の一因は人口の高齢化にあることが分かる.また,診断運用上の変化による見かけの増加も死者数の増加に寄与している可能性がある.一方,暑熱による年間の死者数・死亡率と夏季気温(7,8月平均気温)との間には,戦後の減少期と1990年代後半以降を除いて0.7~0.8の相関があり,夏季気温の変動1℃当たり暑熱死亡率は40~60%変化する.
著者
藤部 文昭
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.119-132, 2004-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
18 14

近年,盛夏期に多発している著しい高温について,アメダス資料を利用してその空間分布と経年変化(1979~2002年)を調べた.昼間の高温(最高気温〓35°Cあるいは〓38°C)は三大都市圏の内陸域で多発し,夜間の高温(最低気温〓25°Cあるいは〓28°C)は関東以西の沿岸域と大都市の中心部で多発している.経年的にみると,関東~九州では夏季のピーク時の気温が1°C/(20年)のオーダーで上昇しているが,850hPaの気温上昇率は地上の半分以下であり,地上の経年昇温の過半は境界層内の変化である.この高温化は都市域だけでなく東~西日本の広範囲に及んでいるが,三大都市圏の内陸域では周辺地域に比べて最高気温の上昇率が0.2~0.4°C/(20年)大きい.これらのことから,近年の大都市圏の高温多発傾向は,徐々に進展してきた都市ヒートアイランドにバックグラウンドの急激な高温化が加わった結果であると考えられる.
著者
藤部 文昭 坂上 公平 中鉢 幸悦 山下 浩史
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.395-405, 2002-05-31
参考文献数
16
被引用文献数
24

東京23区で夏の高温日の午後に起こる短時間強雨について,その発生に先立つ地上風系の特徴や風系と降水系との対応関係を,7年間のアメダス資料と6年間の東京都大気汚染常時監視測定局の資料および4年間のレーダーエコー資料を使って調べた.解析対象は23区内で日最高気温が30℃以上になり午後に20mm/時以上の降水が観測された場合とした.このような例は7年間に16件あり(台風時の1例を除く),そのうち12件では強雨発生に先立って鹿島灘沿岸から吹く東寄りの風と相模湾沿岸から吹く南寄りの風とが東京付近で収束するパタン(E-S型)になっていた.詳しく見ると,東京付近には10〜20kmスケールの収束域が1つないし複数個あり,その後降水系が発達した場所はこれらのうちのどれかに対応していた.E-S型の風系は,晴天日でも東風が吹きやすい気圧配置のもとでは現れることがあるが,強雨日は晴天日に比べ対流圏下〜中層が湿っていて,K-indexや可降水量が大きい傾向があった.
著者
藤部 文昭 松本 淳
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.319-325, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
9

新聞4紙の記事検索サイトを使い,気象や気象災害に関連する45語について,1990~2020年の記事数の長期変化を調べた.その結果,近年は極端気象や災害に関わる用語の記事が増える傾向にあることが見出された.しかし,変化傾向は用語によって違い,“豪雨” の記事数は大幅に増えたのに対して “集中豪雨” の記事数は減っている.また,災害に直結しない一般的・日常的な気象用語の記事数は,横ばいあるいは減る傾向にある.
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.671-680, 1996-10-31
参考文献数
21
被引用文献数
13

台風移動時の風速分布を与える各種の計算式を比較検討し, 以下の点を指摘した. (1)力学的な観点から見れば, 台風と一緒に動く座標上の傾度風を求める方法が最も合理的であると考えられる. (2)その解は, 台風静止時の傾度風に(KC+G)/(K+1)の補正をすることによって近似できる. ここでCは移動速度, Gは一般風である. Kは遠心力とコリオリ力の比であり, 台風中心からの距離の関数である. (3)一方, 流跡線上の傾度風バランスや, 変圧風に基づく方法は, 発想は興味深いものの計算結果の妥当性には疑問がある. なお台風の中心付近ではK≫1であるため, 風の非対称性は一般風ではなく台風の移動によって生ずる.
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.7-18, 1998-01-31
被引用文献数
23

16年間(1979〜1994年)のアメダス資料を使って東京とその周辺の降水量・降水頻度分布を統計的に調べるとともに, それ以前の資料も使ってこれらの経年変化を調べ, 都市効果の有無を検討した. その結果, 以下のことが見出された. (a)降水量・降水頻度は, 東京都心〜山の手では正偏差(=周辺よりも多い), 東京湾岸では負偏差である. (b)降水量の正偏差は暖候期の正午〜夕方に大きい傾向があり, これは主として強い降水(≧5 mm/時)による. (c)bの傾向は都心で最も明瞭である. 都心では経年的にも午後の降水の比率が増加している可能性がある. (d)山の手では降水全般の頻度(≧1 mm/時あるいは≧1 mm/日)にも正偏差があり, 降水日数の経年増加傾向が認められる. これらのうちbとcは都市ヒートアイランドによる対流性降水の増加を反映している可能性があるが, a〜dがすべて都市効果によるものとは考えられず, 都市効果については慎重な見極めが必要であることが指摘された.
著者
大久保 篤 市川 寿 田中 強 河野 智一 藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.227-234, 2005-04-30

諏訪湖の沿岸では, 冬季夜間の著しい低温時に周期数十分, 変動幅数℃の大きな気温変動が観測されることがある.この現象を解明するため, 気象庁のルーチン観測資料を解析するとともに, 2003年1〜2月に諏訪湖周辺で野外強化観測を行った.気温変動は, 諏訪湖が全面結氷し積雪があり, 晴れて風が弱まった夜に発生していた.また, 気温変動はほぼ諏訪盆地内全域で発生しているが, 変動幅は湖岸に近い地点ほど大きく, 気温が急降下するタイミングは湖畔の方が早かった.気温変動に対応して風向も変動し, 湖からの風のときに前後の時間帯に比べて低温となる傾向があった.さらに, 気温変動の発生する時は, 地上から高度50m付近にかけて冷気層が存在し, 地上気温の変化と対応してその厚みが変動していた.これらは, 「諏訪湖上に現れる冷気層の崩壊・流出と再形成のサイクルが気温変動に関与している」可能性を示唆している.
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.245-253, 2000-04-30
被引用文献数
2

日本の気象観測における日最低・最高気温の日界(1日の区切り時刻)は現在は00時である.しかし1939年までは多くの地点で日界を22時としており, 1953〜63年は日最低気温の日界を09時としていた.こうした日界の違いによって日最低・最高気温の階級別日数に生ずる偏差を, 19年間のアメダス資料を使って評価した.その結果, 09時および22時日界による冬日日数は, 00時日界によるものに比べて全国平均でそれぞれ4.9日/年(5.8%)と2.3日/年(2.8%)少なく, 熱帯夜日数はそれぞれ0.8日/年(15%)と0.3日/年(5.1%)多いことが示された.一方, 真冬日・夏日・真夏日日数については, 22時日界によるものと00時日界によるものとの差は比較的小さかった.次に, 日界の違いによる日最低・最高気温の偏差で階級別日数の偏差を表現する簡便な式を導き, その有効性を検証した.最後に, 階級別日数の経年変化率の評価における日界変更の影響を検討し, 過去100年間の冬日日数の経年変化率には数日/(年・100年)の評価誤差が生じ得ることを指摘した.
著者
大久保 篤 市川 寿 田中 強 河野 智一 藤部 文昭
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.227-234, 2005-04-30
参考文献数
8

諏訪湖の沿岸では, 冬季夜間の著しい低温時に周期数十分, 変動幅数℃の大きな気温変動が観測されることがある.この現象を解明するため, 気象庁のルーチン観測資料を解析するとともに, 2003年1~2月に諏訪湖周辺で野外強化観測を行った.気温変動は, 諏訪湖が全面結氷し積雪があり, 晴れて風が弱まった夜に発生していた.また, 気温変動はほぼ諏訪盆地内全域で発生しているが, 変動幅は湖岸に近い地点ほど大きく, 気温が急降下するタイミングは湖畔の方が早かった.気温変動に対応して風向も変動し, 湖からの風のときに前後の時間帯に比べて低温となる傾向があった.さらに, 気温変動の発生する時は, 地上から高度50m付近にかけて冷気層が存在し, 地上気温の変化と対応してその厚みが変動していた.これらは, 「諏訪湖上に現れる冷気層の崩壊・流出と再形成のサイクルが気温変動に関与している」可能性を示唆している.
著者
藤部 文昭 松本 淳 釜堀 弘隆
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.595-607, 2020 (Released:2020-11-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1

区内観測資料を利用して,令和元年東日本台風(台風1919)による降水量分布を過去の大雨事例と比較し,また,極値統計手法を使って大雨の再現期間を評価した.東日本台風による総降水量の分布は1947年のカスリーン台風のものと類似し,関東山地から東北地方の太平洋側にかけて降水量が多かった.これらの台風による2日間降水量の再現期間は,一部の観測地点では数百年以上と計算されるが,多降水域の領域平均降水量については100年前後と見積もられる.
著者
藤部 文昭
出版者
一般社団法人 日本治山治水協会
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-14, 2001-04-01 (Released:2018-03-31)
参考文献数
28
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.643-653, 1998-08-31
参考文献数
19
被引用文献数
15

関東平野の内陸域で著しい高温(日最高気温≧36℃)の観測される日数が大幅に増えている実態を示し, それをもたらした要因を1961〜96年の気象官署資料等を使って検討した.猛暑日の一般風を西寄り(W型), 北寄り(N型), 弱風(C型)の3つに分け, それぞれについて日最高気温や850hPa気温の経年変化を観察した.その結果によると, 著しく高温な気団におおわれる晴天日(850hPa気温≧21℃で日照時間≧8時間)が1980年代以降に高い頻度で現れている.従って, 猛暑日数の増加, とりわけ38℃以上の極端な猛暑の頻発には総観的な要因がかかわっていると考えられる.一方, W型とC型については850hPa気温の変化を除いてもなお, 内陸域の日最高気温には明らかな経年上昇が認められ, これらの型の猛暑日数増加には都市化が影響していると推測される.
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.785-790, 2006-10-31
参考文献数
13
被引用文献数
3

本州〜九州では,5月下旬〜6月初めの半月程度の期間,梅雨入りに先立って一時的な少雨期になる.その実態を,44年間(1961〜2004)の日別資料に基づいて記述する.少雨期は九州〜近畿の南岸では5月24日ごろ,東海〜関東では5月29日ごろ,東北では6月1日ごろを中心として現れ,その期間は降水率(≧1mm)や降水量が前後に比べて20〜30%少ない.この期間は大雨日数もやや少ないが,東日本を中心として雷や雹が多発する.850hPa相当温位の解析結果から,5月後半には本州付近の傾圧性が一時的に弱まることが確認される.
著者
藤部 文昭
出版者
(公社)日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.923-929, 1987 (Released:2007-10-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1 28

1961~1985年の地上気象観測資料を使って,東京の都心における気温その他の気象要素の平日と週末の差を調べ,以下の結果を得た。(1) 日曜口(祝日等を含む)の気温は平日よりも低い。気温差は昼間に大きく,昼間の気温差は25年間の平均で約0.2°Cである。(2)気温差は時代とともに増大しており,近年は土曜日の夜にも低温が現れる。(3)気温差は年間を通じて認められるが,値は季節•天気•風速によって多少異なる。(4)日曜日の昼間は気圧が平日よりも0.05mb程度高い。このことから昼間の気温低下は数百 m 上空まで及んでいることが分かる。夜間は気圧差は検出されず,気温低下は地上付近だけに限られると思われる。(5)他の二,三の気象要素にも平日と日曜日の差が認められる。なお,曜日や日付けによる平日同士の気温差は認められない。
著者
松本 淳 久保田 尚之 藤部 文昭 林 泰一 山本 晴彦 財城 真寿美 寺尾 徹 村田 文絵 高橋 幸弘 山下 幸三 赤坂 郁美 遠藤 伸彦 森 修一 釜堀 弘隆 高橋 洋 山根 悠介 大塚 道子 遠藤 洋和
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-11-18

日本を含むアジア諸国における紙媒体や画像での日降水量データや台風経路等をデジタル化したデータセットを作成し、モンスーンアジア域における降雨強度の長期変化を解析した。その結果、日本では1930年以降、東北日本を中心に降雨強度が大きくなっていた。フィリピンでは1950年以降の夏季には強雨の増加傾向が、冬季には西海岸で乾燥の強化傾向がみられた。1940年代以前の傾向はこれらとは異なり、近年の変化傾向は数十年スケールでの変動の一部とみられる事、エルニーニョと地球温暖化の影響の両方の影響を受けている可能性が高い事がわかった。中部ベトナムでも近年の傾向と1940年以前の傾向に違いがみられた。
著者
藤部 文昭 田畑 明 赤枝 健治
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.617-626, 1995-09-30
参考文献数
11
被引用文献数
3

台風8922が房総半島を北東進した際の下層風の特徴を,その北側を進んだメソスケールの寒冷前線に注目しながら解析した.このメソ前線は当初は薄い寒気を伴うものであったが,台風が近づくとともに寒気の厚さが増して強いシアを伴い,その後面にはごく低い高度に30ms^&lt-1&gtの風速極大が存在した.この前線付近では台風本来の渦状の気流は著しく変形され,弱風から強風への不連続的移行や,台風経路の左側における時計方向の風向回転など,台風通過時としては異例の変化が認められた.また,前線の後方には大きな上昇流が存在し,幅30〜40kmの強雨帯が現れた.
著者
藤部 文昭 高橋 清利 釜堀 弘隆 石原 幸司 鬼頭 昭雄 上口 賢治 松本 淳 高橋 日出男 沖 大幹
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

970年代まで行われていた区内観測による26都府県の日降水量データをディジタル化し, 高分解能かつ長期間の降水量データセットを作成した。このデータや既存の気象データを利用して著しい降水や高低温・強風の長期変化を解析し, その地域的・季節的特性等を見出した。また, 極値統計手法を様々な角度から検討し, 各方法の得失を見出した。さらに, 全球数値モデルを用いて, 降水極端現象の再現性に対するモデルの水平解像度の影響を調べ, 今後モデルと観測データを比較するための統計的手法の検討を行った。