- 著者
-
川村 隆一
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, no.6, pp.1009-1027, 1998-12-25
- 参考文献数
- 30
- 被引用文献数
-
16
1973年から1995年までのNCEP/NCAR再解析データを用いて、夏季アジアモンスーンとENSOとの相互作用を調べた。インド亜大陸上の20°Nを境とした、対流圏上層(200-500hPa)の夏季平均層厚偏差の南北傾度で定義されるモンスーン・インデックスとモンスーンに先立つ春季のNino-3地域のSST偏差との相関はかなり高い。これはENSOに伴うSST forcingの変化が間接的に夏季アジアモンスーンに影響を与えていることを示唆する。エルニーニョ現象によるウォーカー循環の弱化は、冬季から春季にかけての熱帯インド洋北部・海洋大陸上の積雲対流活動を抑制する。春季におけるこの熱帯対流活動の弱化から、赤道から離れた対流加熱に対するロスビー型応答により、チベット高原西方に低気圧性循環が生じる。誘引された低気圧性循環は陸域の降水量増加、土壌水分の増加をもたらし、インド亜大陸北西の中央アジア地域の地表面温度を減少させる方向に作用する。一方、モンスーンのオンセット前の春季後半に、熱帯インド洋では、下層の北東風偏差の卓越と雲量減少に関係した、海表面の熱フラックスやwind forcingに対する海洋の力学的応答の変化により、SSTの高温偏差が形成される。陸域と海域にみられるこれら異なる二つの物理プロセスは共に、海陸間の熱的コントラスト(あるいは対流圏気温の南北傾度)を弱める方向に作用し、夏季アジアモンスーンの弱化をもたらす。モンスーンが強い年は全く逆のシナリオになる。このようなプロセスで、夏季モンスーンがそのモンスーン前期に一旦弱く(強く)なると、熱帯インド洋SSTの高温(低温)偏差はさらに発達する。本研究で提案されたメカニズムは、モンスーンの強弱年が分類された1970年代後半から1990年代前半までの時期において有効である。この時期Nino-3地域のSST偏差は、先行する冬季から夏季にかけて異常に持続する傾向にあり、冬季に卓越するENSOと夏季モンスーン偏差をつなぐブリッジとして働いていた。しかしながら、モンスーンとENSOのカップリングの如何にかかわらず、ウオーカー循環の強弱と関連した春季の熱帯インド洋に卓越する外向き長波放射量偏差と下層風偏差は、夏季アジアモンスーンの予測可能性の観点から、依然として重要な因子であることも確かである。