著者
中川原 捷洋
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.232-238, 1972-08-31
被引用文献数
3

連鎖分析に用いられている日本型の標識系統と外国在来のイネとを交配すると、F_2以降で標識形質の分離が乱れることがしばしば観察される。ここでは、第11連鎖群に属するdl(たれば)、bc(鎌不要)およびch(黄緑葉)の3形質について、その分離のゆがみの現象を調査し、遺伝的機構を明かにした。(1)分離のゆがみの型には、F_2分離世代で劣性個体の頻度が有意に減少するもの(減少分離型)と、有意に増加するもの(増加分離型)との2型が認められた。(2)分離のゆがみを生じる各交雑組合せについて、F_1、F_2およびF_3での遺伝行動の分析から、それが標識とした遺伝子自身の重複、不稔遺伝子との連鎖などによって生じたものでないことが判り、さらに正逆交雑の結果にも差がないことから、細胞質因子によって起るとも考えにくかった。また、F_2種子の発芽、生育は正常であったので種子の淘汰によって生じているのでもない。F_2分離集団内での標識形質の表現は、明瞭に正常個体と区別できる。(3)以上の結果から、授精時に花粉の競争が起ると仮定して、授精力の弱い花粉の遺伝子型をga(配偶体遺伝子)とし、gaが諸標識遺伝子と連鎖するために分離がゆがむとすれば、ここでのすべての現象は説明される。さらに、gaを想定してF_2世代での結果から算出したB_1F_1の理論値は観察結果とよく一致した。このことも配偶体遺伝子の存在を支持する。

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