- 著者
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大原 利眞
鵜野 伊津志
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- 天気 (ISSN:05460921)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.12, pp.855-874, 1997-12-31
- 被引用文献数
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6
冬季に東京湾上で形成される局地前線(房総前線)の3次元構造をメソスケール気象モデルによってシミュレートするとともに, 光化学反応を含む物質輸送モデルを用いてNO_2汚染の生成メカニズムについて解析した. 4次元データ同化手法を用いたメソスケール気象モデルは房総前線の形成・消滅過程を再現した. 計算結果によると, 東京湾上には水平風の収束域が形成され, 内陸域から前線方向に吹く下層風は収束域で上昇し反転流となる. また, 前線において南西風の暖気は下層冷気によって持ち上げられる. 前線北側の内陸域では夜間, 弱風条件下での放射冷却と山岳地域からの重力流(冷たい空気塊)の流入によって地上付近に強い逆転層が形成される. 次に, メソスケール気象モデルで計算された気象データをもとに, 光化学反応を含む物質輸送モデルを用いてNO_2濃度分布の時空間変化をシミュレートした. その結果, 前線周辺の地上におけるNO_2濃度変動の基本的特徴が再現された. NO_2高濃度汚染は, 内陸域における弱風・強安定条件下での水平移流・鉛直拡散の抑制, 山岳地域からの重力流による汚染物質の取り込みと輸送, 前線周辺における弱風域の存在等の複合した要因によって発生する. また, 前線付近では上昇流によって地上の汚染物質は持ち上げられ, 上層において内陸方向に輸送されることがシミュレーションによって示された.