- 著者
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丸山 直樹
- 出版者
- 「野生生物と社会」学会
- 雑誌
- ワイルドライフ・フォーラム (ISSN:13418785)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.3, pp.73-84, 2000-06-19
- 被引用文献数
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尾瀬地区に侵入して, 成長中のニホンジカ個体群を放置することは, 環境収容力を低下させ, その過程で尾瀬の生物群集に種の絶滅, 減少, 地域外種の侵入促進などが起こり, 自然生態系を退行に導くことが予想される。それゆえに何らかの人為的干渉が必要とされる。しかし, シカの完全駆除は容認されない。最近の本種の非生息はシカ排除の根拠にならない。少なくとも縄文海進期以降の気温などの環境変化からかつての尾瀬地区でのシカの生息の有無を検討しなければならない。駆除は緊急策として容認されるだろう。植生保護を目的とする人工構築物の設置も一時的には容認されるだろうが, 群集への影響評価が緊急に必要である。尾瀬地区が自然生態系保護地区であるという性格を第一に重視するならばこれらの人為的干渉の恒常化は認められない。生態系生態学的にみた系の復元を前提にした自然放置, すなわち自然過程を尊重した生態系管理への移行を目標にするべきである。尾瀬は国民の関心を集める日本の代表的な湿原地帯であることから, 社会的な合意形成に向けて, 研究調査, 行政的審議過程および結果などの情報公開, 自然生態系保護の普及, 直接的利害関係者だけではない, より広範囲の国民の意思決定への参加システムの完成が必要である。