- 著者
-
金子 弥生
丸山 直樹
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.2, pp.157-164, 2005 (Released:2006-12-27)
- 参考文献数
- 19
- 被引用文献数
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東京都日の出町に生息するアナグマへの餌づけの影響を明らかにするために, 1990年~1997年に, 38頭のアナグマを捕獲し, 体重と体サイズ (首囲, 胸囲, 胴囲, 腰囲) を計測した. オスとメスでは餌づけへの依存度と体重の関係に差が見られ, 季節的に, 又は月に2,3回餌づけに依存するオスと, 毎週餌づけに依存しているメスは, 初春から春に非餌づけ個体より重い体重を示したが, 夏から初冬にかけては差がなかった. 毎週餌づけに依存しているオスは初春から初夏にかけて非餌づけ個体より重い体重を示した. 餌づけに毎日依存するメスは, 非餌づけ個体や他の餌づけ依存個体と比較して, 初春から初冬まで重い体重を示した. オスでは毎日餌づけに依存する個体は見られなかった. また, 非餌づけ個体や餌づけ依存度の低いオスや非餌づけ個体のメスでは, 胸や胴, 腰まわりの体サイズが体重と同様に春から冬に向かって増加することが明らかになった. しかし餌づけ依存度の高い個体にはこのような増加は見られなかった. 自然条件では, メスの授乳期やオスの交尾期の栄養供給を, 前年秋までに蓄積した体脂肪に頼ることになるが, 餌づけに依存する程度が高い個体の場合は, 活動のためのエネルギーを自然環境からの餌のみでまかなっている個体と比較して常に有利な蓄積状態を維持しているものと考えられる. このように, 日の出町のアナグマが採食効率の良い餌づけ場やゴミ捨て場などの人為的な餌を利用することは, 都市近郊の人為的撹乱の激しい生息環境において, アナグマ個体群が獲得した生活様式であるものと考えられるが, 交通事故や人工的な餌による個体群の膨張と崩壊, さらに農業被害, 野生動物としてのアナグマの生態の誤解などのさまざまな問題点を孕んでいる.