著者
小林 良生
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.240-242, 1988

和紙と墨は1000年以上の風雪に耐えた記録材料である。実用性からみれば, 近年では冠婚葬祭など特別の行事にしか使用しなくなったが, 芸術のジャンルでは書に活かされている。紙を構成しているセルロースは陸上の植物を鉄筋コンクリートに例えれば鉄筋に相当し, リグニンはコンクリートに当たる。セルロースの中でも最も強靱な靱皮(じんび)繊維を美しく配列して作った紙が和紙である。"どこの国を振り返ってみたとて, こんな味わいの紙には会えない"とは柳宗悦の言葉であるが, この和紙以上の紙は活発な研究開発が行われている新素材を駆使してもできていない。一方, 墨の主要成分である炭素もまた最先端を行く新素材の一つである。白と黒のコントラストのきいたこの二つの記録材料が, なぜ今なおみずみずしい新しさを持ち続けているのか本稿で考えてみよう。

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