- 著者
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山本 卓
- 出版者
- 文教大学
- 雑誌
- 文学部紀要 (ISSN:09145729)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, no.1, pp.57-101, 2005-09-01
アラゴンの晩年の傑作のひとつである『死刑執行』の中には、「人間たちの森」という奇妙な言い回しが出現する。この「人間たちの森」とは何か。一人の人間の内面には無数の他者たちの言葉が住み着いている。ロマネスクな空間=「紙=空間」の中では、こうした他者たちの言葉を媒介として、「小説が存在しなくなれば消えてしまうあの変化する我々」(BO, p.132.)が組織化されていく。批評家ル・シェルボニエの言い方を借りるならば、「可能態としての諸人格の宇宙」(BL, p.177.)とでも翻訳できそうな、この不思議な概念の意味するところは、アラゴンの創造の秘密の根底を占める考え方なのである。アラゴンの作品における登場人物たちは「複数への回路」を通って増殖を続けていく。以下では、この「複数への回路」から「人間たちの森」へと至るプロセスについて、さまざまの角度からの検討を試みたい。