著者
佐藤 斉華
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.73-95, 1998-06-30

民族問題/ナショナリズムという表現が示す問題群は, 国民国家の規約体系を挟むそれ「以前」/「以後」の「民族」の動態を考察することを要求する。本稿は, 1990年の民主的体制への転換以降, ネパール複合社会を縦横に走る社会・宗教・民族的境界がより顕在化/問題化している状況を受けつつ, 北東ネパールの一地域に由来する「ヨルモ」という民族範疇の変容過程を検討することにより, その一断面を切り取ろうとするものである。「ヨルモ」は元来地名であるが, 伝統的に, 文脈に依り指示範囲を微妙に変えつつその(主な)住民や言語にも柔軟に適用されていた。近年カトマンヅの一遇に形成されたヨルモ・コミュニティのなかで, 従来とは性格を異にする「ヨルモ」の用法が特に90年代に入り急速に広まっている。即ち固定的な社会文化的実体=民族の名としての使用であり, 「ヨルモ」をめぐる社会・文化・言語・地理的諸境界間のズレは克服されるべき課題となったのである。新たな用法のなかでは, このズレにどう対処するかにより二つの方向性が現れた。「ヨルモ」により多くの成員を取り込もうとし結果として文化的異質性の拡大するのも黙認する拡大派と, 「ヨルモ」の人口がたとえ目減りしても文化的均質性の水準維持または向上を優先しようとする純粋派であり, 両者の間を「ヨルモ」の境界は揺れ動くことになる。「ヨルモ」は, 伝統的用法に加えて移住地での議論の過程を包含し, 幾重もの位相がずれながら重なってせめぎあう重層的かつ動態的な様相を呈することになる。こうした「ヨルモ」をめぐる事情は, 国民国家概念の浸透にされされた少数民族の反応と対応の一例であり, またその浸透が民族的範疇についての意識と言説の複雑なダイナミクスにいかに寄与するかということの例示ともなっているのである。

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