- 著者
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勝井 晃
- 出版者
- 日本教育心理学会
- 雑誌
- 教育心理学研究 (ISSN:00215015)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.1, pp.42-49, 1968-03
立体空間における方向概念の発達過程を明らかにするために,3才から11才までの児童を対象とし,かれらが上下・前後・左右のコトバ自体をその空間方向や対象物においてどのように把握しているかを発達的に検討した結果,下記の諸点が明らかにされた。 1. 自己身体を基準とした空間方向に対する客観的な理解の水準は各方向によって異なり,発達的にも明確な差が認められた。すなわち,上下方向は年令的にもっとも早く3∼4才において理解され,ついで前後方向が5∼6才において,さらに遅れて左右方向は7∼8才においてほぼ正確となる(Fig. 4)。 2. 方向判断の基準を対面人物に移動させたり,姿勢条件を変化させた場合には視点の移動が困難となり,多くの自己中心的な誤りを示す。この傾向は6才ないし7才までの児童において顕著であった(Table 2)。 3. 自己身体の左右および対面人物自体の左右に対する理解においても発達的に明確な差が認められ,年令的にみて両者間にはほぼ2年近くのずれが存在する。とくに,自己と対面者との相対的な逆関係が理解しうるのは8才ないし9才においてである(Fig. 4)。 4. 面前に定置された2個および3個の対象物相互の左右関係の理解において,3個の場合は,2個の場合にくらべてその相対的な関係判断が困難となる。発達的にみて7才ないし8才までは自己身体の左右を基準として絶対的判断をする傾向が強く,10才ないし11才において視点の移動が可能となり,対象物相互の相対的な左右関係が理解されうるようになる(Fig. 5)。 5. 自己と対面人物および対象物相互間の左右関係に対する理解能力と知能水準との間には正の相関関係が認められ,また,各被験者群間における地域差,学校差が認められた(Table 7, Table 8)。