著者
柳沼 〔ツトム〕 泉 陸一
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.p289-294, 1980-03
被引用文献数
1

分娩時期は,比較的平穏な妊娠状態から,新しい生命を生み出して産褥期こ至る,母体にとっては一大変換期である.この時期においては,既に知られた生理的.生化学的変動もあるが,なお多くの未知のものがあると考えられる.このうち既知のものに関しても,これらが実際にどのようた臨床的意義を有するか不明のものが多い.もしもこれらが臨床上の事象と結びつくならば,それらは臨床上の指標として極めて価値あるものとなる.かかる意図における研究の一環として,本研究において,分娩前後の母体血清Cortisolの変動を観察した.(1)陣痛発来前の25.86±1.10(S.E.)μg/dlに比較して,陣痛開始による入院時には41.98±4.62μg/dlに上昇し(Pp<0,005),分娩直前にはさらに67.91±5.97μg/dl上昇する(Pp<0.001).分娩直後にはこれよりもやや上昇するが有意差はない(70.42±7.39μg/dl) 産褥第1,日の早朝には,陣痛前のものとほぼ同じになり,第2日,5日と次第に減少する.(2)胎児娩出時の血清Cortisolと分娩時間との間には統計学的に有意な高い相関が認められる(r=0.70, p<0.005).(3)陣痛中の血清Cortisolと分娩時間との間にも統計学的に有意な相関が存在する(r=0.79, p<0.005).(4)初産婦の分娩時間は経産婦のそれよりも有意に長い(夫々9.40±1.57,および5.58±1.76時間,p<0.5).これを反映して,初産婦の胎児分娩直前のけ血清Cortisolは経産婦のそれより有意に高い(夫々81.65±8.50,および58.63±4.78μg/dl,p<0.025).これらの結果は,陣痛が母体に対してストレスとして作用することを示すものであり陣痛に関する諸要素のうちの持続時間すなわち分娩時間が母体のの血清Cortisolの増加すなわちストレスに対する反応の大きさを決定する重要な因子であることを示唆する.従って分娩が還延した場合には,その管理のために副腎機能がまだ充分考慮されねばならない.

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