- 著者
-
青木 健
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.79, no.1, pp.25-47, 2005-06-30
本稿の目的は、古代のパフラヴィー語文献資料と、現代イランの現地調査を総合して、ゾロアスター教における聖地の概念を明確にすることにある。先ず、文献資料から、古代ゾロアスター教の聖地は、(1)「移動・純粋聖火型」と(2)「定着・他信仰融合型」に分類できることが指摘される。しかし、それぞれのケースは、ゾロアスター教史上、謎めいた展開を遂げている。次に、イランの現地調査から、現代ゾロアスター教の聖地は、(1)「神官レベルでの聖地」と(2)「平信徒レベルでの聖地」に分類できることが指摘される。そして、これらの各聖地は、古代の(1)、(2)と密接な関係があると類推された。ここに、古代の文献データと現代の現地調査データをリンクさせる根拠がある。その結果、(1)系の聖地は、ゾロアスター教の教義に忠実だが、神官団だけの占有物であり、(2)系の聖地は、イランの民間信仰に聖火を被せたものであることが立証された。古代から現代に至るまで、ゾロアスター教の聖地は大きくこの二系統で構成されているのである。