- 著者
-
熊 傑田
上田 誠之助
- 出版者
- 公益社団法人日本生物工学会
- 雑誌
- 醗酵工學雑誌 (ISSN:03675963)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.4, pp.241-248, 1976-04-25
重質経由(high boiling point gas oil)を唯一の炭素源として40〜50℃を適温とする細胞, 酵母, 放射菌およびカビのスクリーニングを行った.得られた30株の中に9株の放射菌と1株のカビ以外に全部は細菌であった.細菌の中に普通によく知られている細菌よりリン含量が高い菌を数株分離した.その中の1株Brevibacteriumの一種であると同定した.A25R菌は石油資化性がよく, その菌体内リン酸化合物を分画して標準菌株と比べて見ると冷酸可溶画分とKOH可溶画分に特徴があることがわかった.冷酸可溶部を分画して見るとATPは 3.6μg/mg-cells, ADPは2.3μg/mg-cellsであった.KOH可溶画分中にRNAの分解に由来したモノヌクレオチッドのCMP, AMP, UMPとGMPのほかに氷冷した10%トリクロル酢酸で抽出できないが, アルカリによって分解をうけつつ抽出される糖のリン酸エステルが存在していることがわかった.このリン酸エステルの検討について後に報告する.Brevibacterium sp. A25R菌を用いてその培養条件を検討したところ, 有機窒素源は必要でなく, 無機塩と重質軽油でも培養できた.炭素源濃度を0.2〜10v%とかえても, つねに一定の比増殖速度0.35hr^<-1>をもつことがわかった.炭素源濃度が2v%以上では, 菌体濃が2〜3mg/mlを越えると資化できる炭化水素がまだ残っているのに, 増殖速度が減少しはじめ, 長時間にわたって低い速度で増殖しつづけることがわかった.この現象について2,3の検討を行った.培養の最初の5時間内にはpHの変動がなく, 中和剤の添加が見られなかったが, 培養が進むにつれてpHが酸性になり, 中和剤の添加が見られた.培養液のpHを6.4〜7.4にたもつために加えられた4N NaOHが不定形に変形した油滴を円形にもどすという現象が観察された.NaOH中和での油滴が円形にもどすため菌体の接触しうる油滴表面積が減り, 菌の増殖が不良になったのではないかと推察した.一方, 4M(NH_4)_2HPO_4で中和する場合, 変形した油的が培養が進むにつれて更に小さくなっていて対数増殖期(始発炭素源濃度が4v%の場合)は菌体濃度7〜8mg/ml までつづき, 最大菌体濃度は8mg/mlに達すること(NaOHで中和する場合は 5.6mg/mlであった)がわかった.更に0.06%Tween60を含む4M(NH_4)_2HPO_4で中和する場合, 油滴は4M(NH_4)_2HPO_4だけで中和する倍より更に細かい変形油的になり, 菌体濃度は 9mg/mlまで高めることができた.このように中和剤の油滴形状や大きさへの影響は大きく, それらが菌体増殖へ強く作用することが認められ, 石油醗酵の場合油滴を細かく培養液中に分散させる手段とか, 菌の乳化力を妨害する因子の回避を考慮に入れなければならないと思う.