- 著者
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青柳 かおる
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.79, no.3, pp.723-744, 2005-12-30
本稿では、ガザーリーの神秘思想における性の重要性を検証し、特に神秘主義的宇宙論と性の議論との結びつきを明らかにする。ガザーリーの禁欲主義の議論にも触れながら、食欲と性欲を比較し、さらにマッキーとイブン・アラビーの議論とも比較して、スーフィズムの思想史におけるガザーリーの性の議論の独自性を検討する。まずマッキーの神秘主義的宇宙論は断片的であり、また禁欲的に性欲を抑えていく立場である。ガザーリーは、マッキーの宇宙論を体系化し、宇宙論において人間霊魂の上昇を説き、さらに性の持つ肯定的な力を認めた。そして性に対する考え方と神秘主義的宇宙論が一体となった結果、性欲は、神秘修行を中心とする神への崇拝に励む原動力になる、という思想を理論化することができた。存在一性論を説くイブン・アラビーにおいては、神と世界の一体性と重なる男女の性的結合が重視されている。ガザーリーは、性の肯定的な力を取り入れ、自らの神秘主義的宇宙論に適合する形の修行論を展開しているのである。