- 著者
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富田 昌平
- 出版者
- 一般社団法人日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.2, pp.230-240, 2004-08-20
本研究の目的は,空想と現実に対する区別認識の違いによって,箱の中に想像した生き物に対する幼児の現実性判断はどのように異なるのかについて検討することであった。幼稚園年中児48名に対して空想/現実の区別課題と空箱課題を行った。まず,空想/現実の区別課題の成績をもとに,幼児を統合型,混同型,否定型,肯定型の4つに分類し,次に,空箱課題における行動や主張を類型ごとに比較した。統合型は空想と現実を適切に区別できた者,混同型は空想と現実を正反対に区別した者,否定型は空想と現実の両方を否定した者,肯定型は空想と現実の両方を肯定した者である。主な結果は次の通りである。第1に,否定型の幼児は他の類型の幼児よりも,空箱課題において箱への探索行動を示すことが多く,加えて,彼らの多くは後の質問において「空っぽだ」と主張することが多かった。第2に,肯定型の幼児は,箱への探索行動をほとんど示さなかったが,その一方で「いるかもしれない」と主張することが他の類型の幼児よりも多かった。第3に,統合型の幼児は他の類型の幼児よりも,願いごとや魔法によって想像が現実になる可能性について判断するときに,単純に"可能か不可能か"で答えるのではなく,条件つきで回答したり,判断を保留したりすることが多かった。以上の結果は,幼児における主張面と行動面での心の揺らぎやすさという点から議論された。