- 著者
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小川 賢一
佐藤 英毅
- 出版者
- 日本衛生動物学会
- 雑誌
- 衛生動物 (ISSN:04247086)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.4, pp.355-360, 1993
- 被引用文献数
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群飛しているセスジユスリカの雄の音響応答を音響トラップを用いて野外で調べるとともに, 雌雄の羽音周波数を羽化当日から羽化後4日目まで毎日, 10℃, 15℃, 20℃および25℃の各温度条件下で測定した。群飛は成虫の発生源の河川際の桜の木の幹横および枝下に, 地上0.5mから5m以上の高さに形成された。群飛は平均98.0%が雄で構成されていた。雄は主に周波数180Hzから390Hzの音響に対して応答し, トラップに誘引・捕獲された。しかし, 一定の気温条件下では, 雄が顕著に応答する音響周波数の範囲がかなり狭いことも明らかとなった。この雄の音響応答において, 捕獲に最適な音響周波数と気温との間にきわめて高い正の相関が認められ, 音響周波数の変動は10Hz/℃であった。雌雄の羽音周波数は同一気温条件下で, 羽化当日から羽化後4日目までほぼ一定であった。雄の羽音周波数は同日齢の雌より常に高くて, 1.27倍から1.68倍であった。いずれの日齢においても, 羽音周波数と気温との間にきわめて高い正の相関が雌雄ともに認められた。その羽音周波数の変動は雄で18∿21Hz/℃, 雌で10∿12Hz/℃であった。さらに, 気温に対する雄の音響応答の回帰直線と気温に対する雌の羽音周波数の回帰直線はいずれの日齢においても一致した。これらのことから, セスジユスリカの雄は気温の影響を受けて変動する雌の羽音周波数に的確に同調し, 応答できる聴覚能力を有していることが明らかとなった。