著者
門馬 健次 高橋 多蔵
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.4, pp.324-328, 1954

日華事変ぼつ発3年目頃から大東亜戦争に至る期間に於て上海日本居留民の間にも本国に見習つて隣保制度が組織され, 今にしてみれば実にはかない回想でしかないのであるが, 亢奮したふん囲気のうちに民防空に関する諸施設が町内会単位に着々と強化されてゆき, 防火用水槽設置の如きもその一つの現れであつた.ところがこの防火用水槽の出現は, それに附随して公衆衛生上見逃しがたい諸問題を起した.例えば夜半苦力, 乞食の露天風呂乃至洗濯場として重宝がられる水槽が日晝は児童の水遊び場として喜ばれるが如き, またデング熱, マラリアのような悪疫伝搬に大きな役割を演ずる蚊族の発生基地がこのため著しく増加する虞れのあるが如きその代表的なものである.昭和18年(1943)の春先, 漢口の中心部にデング熱が発生し9月になつて猛威を振い10月中旬までに464名の患者を算しその約8割が邦人であり, 中国人側の罹患は調査不充分のため確実な数字はつかめないが千数百名に達したであろうとのことであつた.けれどもこの年上海では1名のユダヤ人患者発生の公報に接したのみであつた.かかる情勢のもとに著者等は上海の防火用水槽につき, 蚊族幼虫発生状況調査の必要にせまられ, 当地総力報国会厚生部(部長下村泰介氏)の熱心な協力を得て昭和18年6月から約2ケ月に亘り町内会設置のもの1226個, 工場内設置のもの3129個合計4355個の防火用水槽につき, その種類, 構造, 貯水状態を調査し, 実際貯水されている水槽4092個について蚊族幼虫の発生状況を検査した.検出されたCulex属の種類や各種幼虫の水槽内に於ける混棲状態についての詳細な資料の控など今は全部散逸して手許になく, ここにはAnopheles hyrcanus var. sinensisとAedes albopictusの2種についてのみ記述するの己むなきを遺憾とする.また参考に供した文献もその控を失つたためその極く一部しかここに載せることができない.

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門馬健次・高橋多蔵「上海に於ける防火用水槽内蚊族幼虫の発生状況 : 附その幼虫撲滅に関する実験成績」(「衛生動物」1954年3月)http://t.co/gWhqW5VRnK 論文に、1943年春先の漢口でのデング熱流行の記述あり。

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