著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.130-148, 1958
被引用文献数
1 2

1)本邦各地に於いてツマグロカミキリモドキ(福島県), キクビカミキリモドキ(北海道), アオカミキリモドキ(東京), ズグロカミキリモドキ(奄美大島), ハイイロカミキリモドキ(奄美大島)等による病害例を認め, カミキリモドキ類による皮膚炎は広く発生していること及びこれ迄に記録されたもの以外にも病害を与える種のあることを知つた.2)12属24種のカミキリモドキにつき皮膚貼布試験を行い, 毒性の有無を調査した.材料が生の場合は押潰してそのまま塗擦し, 乾燥死体の場合はクロロホルムで浸出し溶媒を溜去してワセリンに混じて用いた.その結果, 実際に病害の知られているもの以外にルリ・ワダ・カトウ・シリナガ・キバネ・コウノ・オオサワ・ハラグロ・ミヤマ・スジ・メスグロ・クロアオ・キアシ・モモブト等のカミキリモドキも有毒であることを知り得た.3)カミキリモドキによる皮膚炎の臨床的観察を行つた.この皮膚炎は水疱(唯1個又は数個からなり, 形と大きさは多種多様で, 通常緊満し, 疱膜は薄く内容は透明で容易に破壊する)の形成を主症状とするもので, 露出部に好発し, 多少の疼痛及び〓痒感があり, 通常数日で乾涸して治癒に赴くが, 水疱が破壊して糜爛面を形成すれば疼痛が強く経過は遷延する.治癒後永く色素沈着を残す.4)虫体の接触状況と皮膚炎発生の関係をアオカミキリモドキ成虫を用いて実験した.単に人体皮膚面をはうのみでは皮膚炎をおこさないが, 手等で押え或いは払いのける等多少とも圧迫を加えると, この甲虫は前胸背板の前後両縁や翅鞘の縦隆条から毒液を分泌し, これが附着した皮膚に水疱を生ぜしめる.また虫体を誤つて押潰したときにも, 有毒な体液により被害を蒙る場合がある.卵及び幼虫も毒素を含むが, 実際の病害性の点では問題にならない.5)本邦に於けるカミキリモドキによる病害を検討するためにカミキリモドキ科各種の地理的分布と成虫の出現期並びに灯火飛来性の有無につき広汎な調査を行つた.その結果北海道及び本州新記録のもの各1種, 四国新記録のもの2種, 九州新記録のもの5種, 屋久島新記録のもの1種を見出し, その他大多数の種類について分布状態と出現期の概要を明かにすることが出来た.6)上記の調査結果に基き, 本邦産カミキリモドキ科各種の分布及び生態特に灯火飛来性と病害性の関係を論じた. Anoncodina, Ezonacerda, Ditylus, Chrysarthia, Asclera, Oedemerina, Oedemeroniaの7属は野外の植物上に見出されるのみで人体に接触する機会が殆どないから病害性の点ではあまり問題にならない.しかしNacerdes, Xanthochroa, Eobia, Oncomerellaの4属のものは夜間灯火に飛来するので人体に接触する機会が多く, 而もOncomerella以外の3属はいずれも有毒であるから, 病害を与える可能性が大きいと考えられる.

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