著者
黒佐 和義
出版者
北隆館
雑誌
新昆虫 (ISSN:05830524)
巻号頁・発行日
vol.7, no.7, pp.35-38, 1954-07
著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.245-276, 1958-12-10 (Released:2016-09-04)
被引用文献数
8 8

1)線状皮膚炎を惹起する有毒甲虫, Paederus fuscipes Curtisアオバアリガタハネカクシの生活史・習性について野外観察並びに実験的調査を行い, また各期の外部形態を記載した.2)成虫は体長7mm内外で一見蟻のような形状を有する.蛹は体長4.5mm内外の裸蛹で, 全体乳白色乃至橙黄色を呈し, 前胸背の前縁部と後縁部及び第1, 3〜7腹節の側端に各1対の非常に長い剛毛状突起がある.第2齢(終齢)幼虫は体長4〜6mmで, 細長く, 白色乃至橙黄色を呈し, 第9腹節に1対の長い尾突起を具える.第1齢幼虫は体長2.2〜2.4mm.卵は殆ど球形で, 産下当初は淡黄白色で長径約1.1〜1.2mmであるが, 発育に伴つて急速に増大し, 色彩も黄褐色に変る.3)本種は本邦では北海道から九州迄全土に亘つて広く分布するが, 概して暖地に多産し, 水田・畑・池沼の周辺・川岸などに棲息する.成虫は地表及び雑草上で生活する.東京都の成増では成虫は4月下旬乃至5月中旬頃から10月下旬に亘つて灯火に飛来し, 6・7月頃にピークを形成するのが認められた.成虫の灯火飛来活動はいわゆる前半夜型に属し, 暗化後2時間半以内の飛来個体が1夜の総飛来数の過半に達した.4)交尾の際, 雄は雌の背上に乗り, 大腮で雌の前胸と中胸の間の縊れた部分をくわえる.卵は地表の土壌間隙に1個ずつ産下される.1頭の雌の総産卵数は18〜100個(平均約52.3個)であつた.越冬した雌は4月下旬乃至5月中旬から通常7月中・下旬迄産卵を行い, 6月上旬に羽化した成虫は7月から9月に亘つて産卵を行つた.5)卵期間は3〜19日で, 孵化率は96.2%であつた.幼虫期は僅か2齢からなる.第1齢及び第2齢の期間はそれぞれ約4〜22日及び7〜36日であつた.老熟した幼虫は浅い土中に蛹室を造り, 約2〜9日後蛹化する.蛹の期間は約3〜12日であつた.6)成虫は雑食性であるが, 特に食肉性の傾向が強く, 野外では種々の昆虫, ダニ, 土壌線虫などを捕食し, また植物のやや腐敗した部分などを食するのが見られた.幼虫の食性も成虫と同様であつて, 捕食性の傾向が強く, 実験室内では牛肉或いはキュウリの一片の何れを与えても飼育することが出来た.7)周年生活環は東京附近では不規則で1年3世代のものと2世代或いは1世代のものがある.越冬は常に成虫態で行われる.越冬の際多数の個体が集団を作ることがある.8)有毒物質は卵・幼虫・蛹・成虫の何れからも証明された.成虫では有毒物質は体液中に含まれており, 虫体が破壊されて体液が外へ洩れ出ない限り皮膚炎を起すことはないと考えられる.本邦に産するPaederus属のハネカクシ8種のうち, fuscipes, tamulus, poweri, parallelusの4種は有毒物質を含むことが判明したが, 線状皮膚炎の原因として実際に重要なのはアオバアリガタハネカクシ唯一種である.本邦に於いて筆者により明かにされた灯火飛来性を有する68種のハネカクシの内には皮膚塗擦試験で軽微な皮膚炎を惹起するものがあるが, アオバアリガタハネカクシ以外に線状皮膚炎の症状を呈するものはない.
著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.235-244, 1958
被引用文献数
1

1.人体に水疱性皮膚炎を惹起する有毒甲虫Xanthochroa waterhousei Haroldアオカミキリモドキの生活史・習性につき観察を行つた.2.成虫・幼虫及び卵の形態を簡単に記載した.成虫の重要な種的特徴は腹端部に見出された.幼虫は胸部各節及び第1・2腹節の背面と第3・4腹節の腹面に顆粒を伴つた疣状膨隆部を具えるが, 初齢では不顕著であつた.また終齢幼虫は無眼であるが, 初齢では2対の単眼が認められた.卵は両端の円い棒状で乳白色を呈し, 長さ約1.3〜1.4mm, 幅約0.35〜0.41mmであつた.3.本邦各地に於ける成虫の出現期間を調査した.特に東京都成増と福岡県浮羽地方ではライトトラップを用いて季節的消長を調査した.大分県佐伯地方では4月下旬より6月中旬迄, 浮羽地方では5月上・中旬より7月上・中旬迄(稀には7月下旬迄), 神戸附近では5月中旬より7月中旬迄, 東京都成増では5月中旬より7月上・中旬迄出現し, 関東・中部の山岳地帯や北海道では9月に入つてからもなお活動するもののあることが知られた.一般にその発生は初夏の候に最も多いが, 北上するにつれて, また海抜高度を増すにつれて出現期の遅れる傾向が著明に認められた.4.成虫は夜間活動性で昼間は樹木の葉裏などに静止していて活動するものを殆ど見ないが, 夕刻に栗などの花の廻りを群飛する習性のあることを認めた.野外観察, 摂食実験, 消化管内容の検査などから成虫は種々の花特に花粉を食するものと考えられた.砂糖水のみを与えて飼育した成虫のうち採集後42日間生存したものがあつた.5.東京都成増で成虫の灯火飛来の時刻的消長を調査したところ, 明かに前半夜型で, 特に暗化後1〜2時間以内に集中的に採集された.6.成虫に圧迫を加えると, 前胸背の前縁と後縁のやや側方部, 翅鞘の縦隆線, 趺節の末端等から水様透明の毒液を分泌するのが認められた.7.交尾は雄が雌の背上に同方行に平行して乗る型である.また雌が他の雌の背上に平行して乗り, 一見雄が雌に交尾をいどむ際の行動によく似たふしぎな動作を行うものが飼育器内でしばしば認められた.8.飼育器内で雌が産卵管を長くつき出し狭い間隙に挿入して卵を塊状に産下するのが認められた.1卵塊中の卵の数は調査例(5例)では56〜221個であつた.卵は常温(13.9〜31.6℃)では約7〜14日で孵化した.9.幼虫は野外では杉の丸太の接地部及び土中部のやや腐朽した材部(縁材)に穿孔していたものが見出された.よつて土を盛りそれに杉の半腐朽木を埋めこんだ大形水槽を用意し, 孵化直後の第1齢幼虫を放つて飼育を試みたところ, 翌年5月に1頭の成虫が羽化出現した.従つて本種は1年1世代と考えられる.10.本邦各地で昼間野外から採集された成虫は雌雄の個体数に著しい差が認められなかつたが, 東京都成増で夜間灯火から得られた成虫の性比を調べたところ雄は雌に比べて極端に少くて総数の2%にすぎないことが知られた.これは雄の慕灯性が雌よりも弱いことによるものと考えられる.
著者
福井 正信 長田 泰博 黒佐 和義 田中 英文
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.169-172, 1959

1) 1958年11月より1959年1月にかけ関東甲信越駿1都10県の国立病院薬局68カ所を対象として薬局常備薬剤のダニ, 昆虫その他の異物の調査を行つた.2)対象薬剤に澱粉, 乳糖, 含糖ペプシン, ジアスターゼ, パンクレアチン, V.B_1, 乳酸菌製剤, タンナルビン, 乾燥酵母の9種でありこれを各々元封々切直後, 封切後貯蔵, 封切後装置瓶保管の3種ずつ検査を行つた.3)1, 071検体中ダニ検出例44(4.1%), 昆虫検出例51(4.8%)となり薬品別には乾燥酵母がダニ検出率19.6%, 昆虫検出率17.8%と最も高かつた.3)保存条件別には装置瓶, 開封放置の間には差がみられなかつたが元封々切直後のものからも以上2者の50%程の検出例が記録された.4)経過日数によるダニ検出率の差はみられないが長期保存のものからは多数のダニが採集された.5)容器別には多くの形態のものより採集された.また検体採集時の温度, 温度と検出率の間に一定の傾向はみられなかつた.
著者
黒佐 和義
出版者
日本ダニ学会
雑誌
日本ダニ学会誌 (ISSN:09181067)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.85-90, 2009-11-25 (Released:2009-12-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

Archidispusはヒサシダニ科Scutacaridaeの大きな属の一つで,世界で約70種が知られているが,その大多数は雌成虫のみに基づいて記載されたものである.わが国からは,これまでに,オサムシ科Carabidaeの甲虫の成虫に付着した状態で見出された便乗性雌に基づいて38種のArchidispusが報告されているが,なお,かなりの数の種が未記載のまま残されている.本著ではゴモクムシ族(Harpalini)のマメゴモクムシ亜族(Stenolophina)に属するゴミムシに見出された1新種をA. acupalpi (チビゴモクムシヒサシダニ)と命名し,記載する.この種は既知種の中では,同じくマメゴモクムシ亜族のゴミムシから見出されるA. yanoi Kurosa, 1984に最も近縁と考えられるが,基節毛3bの形状などにより容易に識別できる.
著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.130-148, 1958
被引用文献数
1 2

1)本邦各地に於いてツマグロカミキリモドキ(福島県), キクビカミキリモドキ(北海道), アオカミキリモドキ(東京), ズグロカミキリモドキ(奄美大島), ハイイロカミキリモドキ(奄美大島)等による病害例を認め, カミキリモドキ類による皮膚炎は広く発生していること及びこれ迄に記録されたもの以外にも病害を与える種のあることを知つた.2)12属24種のカミキリモドキにつき皮膚貼布試験を行い, 毒性の有無を調査した.材料が生の場合は押潰してそのまま塗擦し, 乾燥死体の場合はクロロホルムで浸出し溶媒を溜去してワセリンに混じて用いた.その結果, 実際に病害の知られているもの以外にルリ・ワダ・カトウ・シリナガ・キバネ・コウノ・オオサワ・ハラグロ・ミヤマ・スジ・メスグロ・クロアオ・キアシ・モモブト等のカミキリモドキも有毒であることを知り得た.3)カミキリモドキによる皮膚炎の臨床的観察を行つた.この皮膚炎は水疱(唯1個又は数個からなり, 形と大きさは多種多様で, 通常緊満し, 疱膜は薄く内容は透明で容易に破壊する)の形成を主症状とするもので, 露出部に好発し, 多少の疼痛及び〓痒感があり, 通常数日で乾涸して治癒に赴くが, 水疱が破壊して糜爛面を形成すれば疼痛が強く経過は遷延する.治癒後永く色素沈着を残す.4)虫体の接触状況と皮膚炎発生の関係をアオカミキリモドキ成虫を用いて実験した.単に人体皮膚面をはうのみでは皮膚炎をおこさないが, 手等で押え或いは払いのける等多少とも圧迫を加えると, この甲虫は前胸背板の前後両縁や翅鞘の縦隆条から毒液を分泌し, これが附着した皮膚に水疱を生ぜしめる.また虫体を誤つて押潰したときにも, 有毒な体液により被害を蒙る場合がある.卵及び幼虫も毒素を含むが, 実際の病害性の点では問題にならない.5)本邦に於けるカミキリモドキによる病害を検討するためにカミキリモドキ科各種の地理的分布と成虫の出現期並びに灯火飛来性の有無につき広汎な調査を行つた.その結果北海道及び本州新記録のもの各1種, 四国新記録のもの2種, 九州新記録のもの5種, 屋久島新記録のもの1種を見出し, その他大多数の種類について分布状態と出現期の概要を明かにすることが出来た.6)上記の調査結果に基き, 本邦産カミキリモドキ科各種の分布及び生態特に灯火飛来性と病害性の関係を論じた. Anoncodina, Ezonacerda, Ditylus, Chrysarthia, Asclera, Oedemerina, Oedemeroniaの7属は野外の植物上に見出されるのみで人体に接触する機会が殆どないから病害性の点ではあまり問題にならない.しかしNacerdes, Xanthochroa, Eobia, Oncomerellaの4属のものは夜間灯火に飛来するので人体に接触する機会が多く, 而もOncomerella以外の3属はいずれも有毒であるから, 病害を与える可能性が大きいと考えられる.
著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.245-276, 1958
被引用文献数
1 8

1)線状皮膚炎を惹起する有毒甲虫, Paederus fuscipes Curtisアオバアリガタハネカクシの生活史・習性について野外観察並びに実験的調査を行い, また各期の外部形態を記載した.2)成虫は体長7mm内外で一見蟻のような形状を有する.蛹は体長4.5mm内外の裸蛹で, 全体乳白色乃至橙黄色を呈し, 前胸背の前縁部と後縁部及び第1, 3〜7腹節の側端に各1対の非常に長い剛毛状突起がある.第2齢(終齢)幼虫は体長4〜6mmで, 細長く, 白色乃至橙黄色を呈し, 第9腹節に1対の長い尾突起を具える.第1齢幼虫は体長2.2〜2.4mm.卵は殆ど球形で, 産下当初は淡黄白色で長径約1.1〜1.2mmであるが, 発育に伴つて急速に増大し, 色彩も黄褐色に変る.3)本種は本邦では北海道から九州迄全土に亘つて広く分布するが, 概して暖地に多産し, 水田・畑・池沼の周辺・川岸などに棲息する.成虫は地表及び雑草上で生活する.東京都の成増では成虫は4月下旬乃至5月中旬頃から10月下旬に亘つて灯火に飛来し, 6・7月頃にピークを形成するのが認められた.成虫の灯火飛来活動はいわゆる前半夜型に属し, 暗化後2時間半以内の飛来個体が1夜の総飛来数の過半に達した.4)交尾の際, 雄は雌の背上に乗り, 大腮で雌の前胸と中胸の間の縊れた部分をくわえる.卵は地表の土壌間隙に1個ずつ産下される.1頭の雌の総産卵数は18〜100個(平均約52.3個)であつた.越冬した雌は4月下旬乃至5月中旬から通常7月中・下旬迄産卵を行い, 6月上旬に羽化した成虫は7月から9月に亘つて産卵を行つた.5)卵期間は3〜19日で, 孵化率は96.2%であつた.幼虫期は僅か2齢からなる.第1齢及び第2齢の期間はそれぞれ約4〜22日及び7〜36日であつた.老熟した幼虫は浅い土中に蛹室を造り, 約2〜9日後蛹化する.蛹の期間は約3〜12日であつた.6)成虫は雑食性であるが, 特に食肉性の傾向が強く, 野外では種々の昆虫, ダニ, 土壌線虫などを捕食し, また植物のやや腐敗した部分などを食するのが見られた.幼虫の食性も成虫と同様であつて, 捕食性の傾向が強く, 実験室内では牛肉或いはキュウリの一片の何れを与えても飼育することが出来た.7)周年生活環は東京附近では不規則で1年3世代のものと2世代或いは1世代のものがある.越冬は常に成虫態で行われる.越冬の際多数の個体が集団を作ることがある.8)有毒物質は卵・幼虫・蛹・成虫の何れからも証明された.成虫では有毒物質は体液中に含まれており, 虫体が破壊されて体液が外へ洩れ出ない限り皮膚炎を起すことはないと考えられる.本邦に産するPaederus属のハネカクシ8種のうち, fuscipes, tamulus, poweri, parallelusの4種は有毒物質を含むことが判明したが, 線状皮膚炎の原因として実際に重要なのはアオバアリガタハネカクシ唯一種である.本邦に於いて筆者により明かにされた灯火飛来性を有する68種のハネカクシの内には皮膚塗擦試験で軽微な皮膚炎を惹起するものがあるが, アオバアリガタハネカクシ以外に線状皮膚炎の症状を呈するものはない.