- 著者
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上野 庸治
- 出版者
- 日本衛生動物学会
- 雑誌
- 衛生動物 (ISSN:04247086)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.3, pp.231-253, 1956
- 被引用文献数
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八丈島に冬期に流行する発疹性熱性疾患で, 俗に八丈デング, 七島熱などとよばれていたものは, いわゆるK群のリケッチアを病原体とする七島型恙虫病で, おそらくタテツツガムシがこれを媒介し, 臨床的には1〜3週間持続する高熱, 著明な発疹, いわゆる刺口(皮膚の初発潰瘍)の存在, Weil-Felix反応のOXK凝集価の上昇などを主徴とし, ほとんど死亡例を見ない急性伝染病である.筆者は1949年以来, 八丈島にあつて前編にのべた恙虫類の生態, 疫学的研究と平行し, 本症の臨床的な研究をつゞけて次のような点を明らかにしえた.1潜伏期は不明な例が多いが, たまたまこれをほゞ確実に推定しえた2例においては12日及び13日間と判断された.2.前駆症はこれを欠くもの, 又は単なる違和感のある程度のものが多い.3.刺口(感染部位に生ずる皮膚の初発潰瘍)はほとんど全例にみられる.多くは1個であるが, 80例中6例には2個以上が見出された.経過は第1病日頃には小水泡を中心にもつ丘疹様であるが, 第3病日頃には中央が壊死して痂皮を形成し, その周囲に発赤環を認め, 痂皮部は通常楕円形で, 長径5〜10mmに及ぶ.第20病日頃には症状の軽快に伴つて痂皮がとれ, 小瘢痕と色素決着を残して消失に向う.症状のはげしいものほど潰瘍が大きい傾向がみられる.4.全例において淋巴節の腫脹, 圧痛がみられ, 特に刺口の局所淋巴節に相当したものにこれが著明である.5.全例に発熱がみられ, 治療せざるものの有熱期は10〜14日位である.大多数が悪寒を以て発病し, 約半数は悪寒戦慄を伴う.頭痛はほとんど必発で, 主訴をなし, 筋痛, 腰痛も多くに生ずる.脾腫, 肝腫は著明でない.消化系症状は不定である.6.発疹は全例にみられ, 全身に発生し, 丘疹性で粟粒大より拇指頭大に到り, 初め鮮紅色, やがて暗赤色となるが, 出血疹は認められなかつた.部位は躯幹に多く, 四肢では躯幹に近い屈側に著明であるが, 頭髪部や粘膜にもみられることがある.7.臨床検査では極期に血圧は最高, 最低とも低下し, 白血球数は減少, 好酸球は消失する.Weil-Felix反応は病日がすゝむとOXK凝集価の著明な上昇がみられたが, OXK19にはほとんど変化をみなかつた.各種の肝機能検査で極期にはその障害がみとめられた.心電図にも一時的な変化のみられた例がある.8.治療にはテラマイシン, テトラシン, オーレオマイシン, クロロマイセチンなどの抗生剤の卓効が認められた.しかし, その投与日数が短いとたとえ大量を初めにあたえても再燃が生じやすく, 反対に少量でも7日以上継続すると完治することを見出した.その結果, 病初の1〜2日はテトラシン, テラマイシンなどの250mg1日1回, 解熱後その125mg1日1回4〜6日間, 計6〜7日間の投与で総量約1gを以て最も合理的, 経済的な治療方式と考える.