著者
一条 茂
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.217-228,図4p, 1966-10

犬における腎,上皮小体および骨の病変の関連性(骨腎系症候群)を知るため,腎・上皮小体・骨検索例26例,腎・骨検索例4例,腎・上皮小体検索例8例および参考としての腎検索例375例を加えた合計413例について,病理組織学的研究を行ない,次の結果を得た.1.腎・上皮小体・骨検索例,腎・骨検索例および腎・上皮小体検索例の合計38例のうち,28例に骨腎症候群を肖定すべき所見が認められた.2.骨腎症候群の発現は,一般的には,腎病変に継発した上皮小体機能冗進および繊維性骨栄養障害症の組合わせによると解される.3.本症候群における骨病変は,従来,一義的に腎性上皮小体機能冗進の結果招来されるとされている。しかし著者は,上皮体の介在性変化を認め得ないで,むしろ腎および骨の両病変の直接的関連性を首肯される例にも遭遇したj4.以上の点から,骨腎症候群の病理発生については,今後さらに検討の必要がある所以を知り得た。5.犬の骨腎症候群における原発性腎病変としては,慢性間質性腎炎または慢性糸球体腎炎などの終末腎病変に限られるべきものではなく,亜急性間質性腎炎,さらにはネフローゼなどの早期病変の場合にまで,拡張されるべきものと解された.6.上皮小体変化として,主細胞の淡明化と肥大・増生およびwatcrcIearcc11の出現,ならびに腺胞構造の不規則化を示す実質細胞配列の異常などを含めた上皮小体機能冗進像が指摘された.7.骨病変は,発端病巣に始まって,管腔性ないし非管性の多中心性小孔形成におよぶOstcodystro一phiafibrosagcneraIisataの像を呈していた.8.石灰転移は,本症候群例較に比的頻発する所 見であって,28例中10例に腎を始めとして,胃粘?膜,肺胞壁,胸膜,牌柱,気管支軟骨,子宮粘膜,・骨格筋々間動脈壁,心内膜,大動脈壁などに,その.州現を認め得た.この変化は,腎障害に多くを帰丁べきものと思考される.9.非腎性の繊維性骨栄養障害症に,上皮小体の増生性変化を伴った4例を得た.犬におけるこの例′に類した報告は,従来皆無である。このような例の存在は,骨賢症候群の検索に当たり,批判的態度を保持する必要性を示唆するものと思われる.10.腎検索例375例のうち,病変が認められたものは175例の多数におよんだ.腎病変の主体をなすものは間質性腎炎で,101例の高頻度に達した.以上,著者は,犬における骨腎症候群の存在を病理組織学的に確認し,あわせて従来の報告にみられない本症候群に属する腎病変の種々相を系統的に解明し,進んで本症候群発病病理学説における一元的解釈に批判を加えた.また,腎病変とは無関係に,繊維性骨栄養障害症および上皮小体機能冗進像を呈する例を得て,犬の小皮十体機龍冗進像の発現の一元的でないことをも明らかにした.

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