- 著者
-
三谷 和男
- 出版者
- 社団法人日本東洋医学会
- 雑誌
- 日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.2, pp.273-286, 2003-03-20
昭和51年(1976年),漢方製剤に全面的に保険が適用され,多くの先生方の使用が可能になって既に四半世紀の歳月が流れています。この間,「漢方薬は副作用がない」といったある意味での神話と「西洋医学では対応できないさまざまな病態にも有効」といった宣伝を背景に,飛躍的にその使用量が増えた時期もありました。確かに,漢方が多くの患者さんの福音となったことは事実でしょう。しかし,西洋医学でしっかり仕事をしておられる先生方に,本当に漢方が受け入れられたのかどうかを考えてみると,疑問符をつけざるを得ません。その原因の一つとして,臨床医にとって漢方方剤を簡便に扱えることがまず必要という発想の下,複合体である漢方薬があたかも単一成分の薬方のように扱われ,漢方薬を処方する医師にとってその中身(構成生薬)への関心が薄れてしまっていることがあげられると思います。確かに西洋医学的な発想で漢方薬を使うとすると,番号のついたエキス剤は便利ですね。麻子仁丸(126番)を例にとってみます。残念ながら単に便通をつけるお薬としてしか扱われていないようですが,麻子仁丸を小承気湯(枳実,厚朴,大黄)の加減法であることを意識し,潤腸湯(51番)や大承気湯(133番)さらには通導散(105番)との使い分けを追求してこそ,かつては難治とされた陽明病治療の場で活躍した承気湯類の真骨頂がつかめるのではないかと思います。その中で,傷寒論を大切にすることがその法則性を学ぶことにあることがよく理解されると思います。また,かつての東洋医学会では,薬方の有効性とともに,もっと生薬の産地にこだわった論議があったと思います。「先生の使われた大黄は,どこの産地ですか?」「その柴胡は北柴胡ですか,三島柴胡ですか?」こういった論議ばかりではいけないかもしれませんが,例えエキス剤であっても自分の使う漢方薬の中身に全く関心が払われない姿勢には問題があると思います。EBMが問われる時代です。単一の化学構造式では表せない漢方薬で治療をすすめる臨床家としては,できる限り品質の良い生薬にこだわってこそ,その臨床の成果を語れるのではないでしょうか。本学会のメインテーマは「大自然の恵みを両手に」です。今回,漢方臨床の現場,代表的な生薬の栽培・収穫に関わる農家の方々のご努力の実際をお話させていただく中で,生薬一味一味を意識した漢方治療を今後臨床の場に活かしていただきたいと願っております。