著者
山岡 傳一郎 伊藤 隆 浅間 宏志 佐橋 佳郎 三谷 和男 姜 東孝 安井 廣迪 渡辺 均
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.270-280, 2017 (Released:2017-12-26)
参考文献数
18
被引用文献数
1 6

漢方製品の使用量と金額は近年増大しているが,輸入生薬単価の上昇と保険薬価低下のために,漢方薬を扱う業界には長期低落傾向がみられる。生薬国内生産はこの30年間減少し続けているが,状況改善への試みがなされている。福島県の会津産人参生産量は153トンから8トンに減少したが,圃場の拡大と栽培期間短縮の研究が開始された。奈良県では生産から販売までの一貫体制の構築に取組み,大和当帰を用いた新たな商品開発販売のため,生産者,製薬・食品メーカー,大学研究機関による協議会が活動している。また薬用作物の国内生産に向けて,農林水産省,厚生労働省ならびに日本漢方生薬製剤協会は,3年間にわたり生産者と製薬各社とのマッチング会議を各地で開催してきた。漢方による医療費削減のためには,漢方製剤だけでなく煎薬などの生薬を直接用いた治療のできる医療体制が必要である。生薬国内生産コストを賄う施策に関する議論が望まれる。
著者
安井 昌之 向山 昌邦 横井 風児 足立 皓岑 若山 育郎 三谷 和男 八瀬 善郎 吉田 博信 吉益 文夫 大田 喜一郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.85-86, 1989-01-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

孤発性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)6例,神経学的に正常な対照5例の中枢神経組織(CNS)26部位について放射化分析法でアルミニウム(A1)を測定し, 2例のALSで高Al含有量を認めた.症例Iで136.5±99.3μg/g dry weight (Mean±SD),症例IIは88.3±52.0μg/g,他のALS4例で28.0±14.3μg/g,対照群は25.8±8.1μg/gであった.孤発性ALSのCNS内に高Alが沈着した2例を報告した.
著者
王子 剛 並木 隆雄 三谷 和男 植田 圭吾 中口 俊哉 貝沼 茂三郎 柴原 直利 三潴 忠道 小田口 浩 渡辺 賢治 藤井 泰志 喜多 敏明 小暮 敏明 小川 恵子 田原 英一 萩原 圭祐 矢久保 修嗣 南澤 潔 村松 慎一 和辻 直 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.224-230, 2014 (Released:2014-11-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

漢方医学では舌の色や形状を観察する舌診が患者の体質や病状を知る重要な手掛かりになると考えている。我が国において,舌診に関する書籍が複数発行されているが,記載内容が不統一で臨床的な舌診所見の標準的な記載方法はまだ確立してない。舌診の研究および学生への漢方教育において標準的な舌診臨床所見は必要である。そこで舌診の日本の文献(計12文献)を用いて,色調や形態の記載について比較検討した。その結果を用いて舌診に習熟した多施設の漢方専門医のコンセンサスを得た上で,舌診臨床診断記載の作成に至った。作成にあたり,実際臨床において短時間で観察し得る舌所見を捉える事と初学者でも理解し易いよう,微細な所見の違いよりも確実に捉えやすい舌診所見に重点を置いた所見記載とした。
著者
三谷 和男
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.673-685, 2007-07-20 (Released:2008-09-12)
被引用文献数
2 2

漢方医学の四診は「望・聞・問・切」であり, 舌診は「望診」の中核をなす。「望」という文字は人の跂立遠視の象形であり, 「古ク霊気ヲ望ンデソノ妖祥ヲミル」が本来の義とされる (白川静・字統より)。つまり「分析」的な見方ではなく, あくまで「全体を大づかみにする」という発想で行わねばならない。患者が診察室に入った瞬間から診療は始まり, その上で「大づかみ」ができるかがカギとなる。聴診器を創作したランネック (1781-1826) が「医学はすべて観察からはじまる」と述べているが, 「望診」のもつ意味は更に深い。舌診は, 神・色・形・態に分けて観察するが, この「神」は「神気」であり, 患者の全身状態を総合的にまとめ, 疾病の予後, 軽重を推察する上で意義がある。黄帝内経・霊枢に「神ヲ得ルモノハ昌ヘ, 神ヲ失フ者ハ亡ブ」とあるように, 神気を把握することは最も重要である。このように, 舌は, 病状の進展, 病態の陰陽・虚実, 気血水のバランスを反映すると考えられるが, 一方では重篤な疾病があるにもかかわらず所見にはそれほどの変化がなかったり, 健常人でも先天的な変化をみることができる。つまり, 局所の所見のみにとらわれず, 舌質や舌苔の変化を, 全身的な病態の部分現象や随伴症状として総合的にみることが前提である。
著者
三谷 和男 若山 育郎 吉田 宗平 八瀬 善郎 上林 雄史郎 三谷 和合
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-98, 1989-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

SMON患者は多彩な病像を呈するが, 疾病の長期化と加齢により漢方的に類似の証に収束する症例も見られる。このような一群の症例の中に「血痺」と捉え得る症例があり, 我々はこれまで黄耆桂枝五物湯加紅参煎剤を5例に6年間投与し, その効果を舌証を中心に検討した。5例全例で舌質の色調が淡紫紅色から淡紅色に変化し, 1例では地図状苔が一様な白浄苔となった。つまりSMONに特徴的な〓血証が全例で改善されたことが舌所見より明らかとなった。腹証でも, 臍下の抵抗等の改善を認めたが, 舌証ほど著明ではない。また, 神経学的にも知覚・運動共に改善を認め, その後の経過も良好である。副作用は, 現在認められていないが, 長期投与は加齢による影響を考慮し慎重に行う必要がある。
著者
三谷 和男
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.273-286, 2003-03-20

昭和51年(1976年),漢方製剤に全面的に保険が適用され,多くの先生方の使用が可能になって既に四半世紀の歳月が流れています。この間,「漢方薬は副作用がない」といったある意味での神話と「西洋医学では対応できないさまざまな病態にも有効」といった宣伝を背景に,飛躍的にその使用量が増えた時期もありました。確かに,漢方が多くの患者さんの福音となったことは事実でしょう。しかし,西洋医学でしっかり仕事をしておられる先生方に,本当に漢方が受け入れられたのかどうかを考えてみると,疑問符をつけざるを得ません。その原因の一つとして,臨床医にとって漢方方剤を簡便に扱えることがまず必要という発想の下,複合体である漢方薬があたかも単一成分の薬方のように扱われ,漢方薬を処方する医師にとってその中身(構成生薬)への関心が薄れてしまっていることがあげられると思います。確かに西洋医学的な発想で漢方薬を使うとすると,番号のついたエキス剤は便利ですね。麻子仁丸(126番)を例にとってみます。残念ながら単に便通をつけるお薬としてしか扱われていないようですが,麻子仁丸を小承気湯(枳実,厚朴,大黄)の加減法であることを意識し,潤腸湯(51番)や大承気湯(133番)さらには通導散(105番)との使い分けを追求してこそ,かつては難治とされた陽明病治療の場で活躍した承気湯類の真骨頂がつかめるのではないかと思います。その中で,傷寒論を大切にすることがその法則性を学ぶことにあることがよく理解されると思います。また,かつての東洋医学会では,薬方の有効性とともに,もっと生薬の産地にこだわった論議があったと思います。「先生の使われた大黄は,どこの産地ですか?」「その柴胡は北柴胡ですか,三島柴胡ですか?」こういった論議ばかりではいけないかもしれませんが,例えエキス剤であっても自分の使う漢方薬の中身に全く関心が払われない姿勢には問題があると思います。EBMが問われる時代です。単一の化学構造式では表せない漢方薬で治療をすすめる臨床家としては,できる限り品質の良い生薬にこだわってこそ,その臨床の成果を語れるのではないでしょうか。本学会のメインテーマは「大自然の恵みを両手に」です。今回,漢方臨床の現場,代表的な生薬の栽培・収穫に関わる農家の方々のご努力の実際をお話させていただく中で,生薬一味一味を意識した漢方治療を今後臨床の場に活かしていただきたいと願っております。