- 著者
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矢吹 理恵
- 出版者
- 一般社団法人日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.3, pp.215-224, 2005-12-20
日本人が国際結婚をする場合, 結婚後の戸籍上の氏を夫婦同姓, 別姓のうちから選択することが民法上可能である。さらに, 同一人物が日本にいる時とアメリカにいる時で名のりを一致させる必要がない。このような選択的な状況のもとでは, 名のりは個人の文化的アイデンティティを表す指標の一つであると考えられる。本研究では, 日米間の国際結婚の夫婦の日本人妻が結婚後に選択する名のりの形態とそれにかかわる要因, そして名のりに付与された「意味」を, 対象者のライフヒストリーの文脈において明らかにするために, 在日の夫アメリカ人・妻日本人夫婦20組に対して質問紙および面接調査を行った。その結果, 妻の名のりには自分の「日本姓」, 夫の「アメリカ姓」, 両方をつなげた「混合姓」の三つの形態が見られることがわかった。妻の名のりの選択は, 日本とアメリカにおいて各自が置かれた状況によって自己の社会的な利益を最大化するための「戦略」(Bourdieu, 1979/1990)として機能していた。名のりの使い分けに見られるアイデンティティの選択は, 個人や集団の文化的アイデンティティは永続的なものとして存在しているのではなく, 変異するものであるというHall (1997/1998)の「位置取り(positioning)」として位置付けられた。