著者
中村 哲也
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.149-158, 1989-03

ラット膵ラ島腫瘍細胞株RIN-rおよびRIN-m5Fを入手し, RIN-rからは新たなクローンを得て,これらの細胞におけるホルモン分泌,およびその遺伝子を比較検討した。すべての細胞において,インスリン,グルカゴンともに分泌し,両遺伝子の発現を認めたが,それぞれの程度は異なっていた。RIN-rのクローンはすべて,long♯1,long♯3を共通のマーカー染色体として持ち,同一細胞由来であることが確認され,これらの細胞が,ホルモン産生の面で多面性を持つことが示唆された。RIN-m5Fも本来は同じ膵ラ氏島腫瘍由来の細胞であるが,ホルモン分泌および遺伝子発現ともに他の細胞より著しく,染色体構成も大きく異なっていた。すべての細胞において, Ha-rasの有意な発現を認めたが,遺伝子増幅やDNAレベルでの組換えを認めず,またホルモン分泌ならびにホルモン遺伝子の発現との関連は不明であった。グルコース刺激に対し,RIN-rおよびRIN-m5Fは,正常ラット膵ラ島と異なった反応を示し,これらの細胞はホルモンの分泌モデルとしては不適当であると思われたが,遺伝子発現の研究上,有用な材料となり得ると考えられた。

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